失業とは
今回は失業について説明していきます。
この文章を読むことで、「失業の意義」と「失業率」について学ぶことができます。
失業の個人的意義
個人にとって失業とは、人生の経済面において想像もしたくない恐ろしい出来事と言えます。
土地収入があるだとか、銀行に預けたお金の利子で生活できるなどという場合を除いて、世の中の大半の人は働いて得たお金で生活をしているからです。
仕事がないということは、収入がないということで、すなわちそれは食べ物もないということになります。
現在の日本では、生活保護制度によってどうしても働けない人たちに対して「最低限度の健康で文化的な生活」を保障しています。
であれば働かなくてもいいのでしょうか?そうではありません。
働いてその成果としての賃金をもらうというのは、自分が社会に対して何かしら貢献をしているという自尊心につながります。
それがない失業者が、資本主義経済の中で自分の居場所を見失ってしまうことは想像に難くありません。
失業の社会的意義
また、失業は社会にとっても恐ろしい出来事です。
失業者でも生きていれば消費をします。
公共サービスや食料、嗜好品、住宅サービスなど「最低限の健康で文化的な生活」を送る程度には、財・サービスを消費します。
しかし、失業者は生産を行いません。生産を行わず消費のみを行う失業者が増えれば、単純に国内総「生産」は減少していきます。
つまり、社会においての失業者とは経済成長の妨げになるとともに、生活水準を測る指標の一つでもあるのです。
【例題】
3人の男性が漂流のすえ無人島に漂着しました。彼らに残されたのはナイフとジャガイモ、そしてライターです。
1人はナイフを持って森に動物を獲りにいき、1人はジャガイモの栽培を始めます。
もう1人は島の裏側に漁に行ってくるといったものの、結局いつも岩の上でぼんやりとしているだけでした。
しばらく経った頃、彼らは森で採れるキノコや、動物の肉、そして収穫時期になったジャガイモで生活していました。しかし、その食卓に魚が並ぶことはありません。
彼は「どうも漁は難しいよ」などと言って、いつも岩の上でぼんやりしているだけでした。にもかかわらず、かれは大食漢なのでよく食べました。
<解説>
この3人は失業者を抱える国家の最も単純な縮図です。
働く人と働かない人がいて、働く人が生産したものを何ら労働力を提供することなく消費する。それが失業者です。
自然失業率と循環的失業
失業とは何かがわかったところで、次に「失業率」について説明しましょう。
失業率を考える上で「自然失業率」と「循環的失業」という二つの言葉がキーになります。
自然失業率とは経済が通常の状態で経験する失業率のことで、比較的長期的なスパンでの数値を意味します。
この「自然」とは自然失業率が正しいという意味でも、長期を通じて一定という意味ではありません。
驚くべきことに経済学は「自然失業率についてはどれだけ長期的に見てもなくならない」と断言します。
つまり、「どうしようもできない」失業率という意味です。
また、失業率はこの自然失業率の数値の周りを年によってぐるぐると変動します。
この性質を循環的失業といいます。
経済を短期的なスパンで見る際に必要な考え方です。
現在の日本の失業率
ところで、近年の日本の失業率を知っているでしょうか?
2015年時点でその数値は3.69%を記録しています。
直近30年で最も高かったのは2002年の5.36%で、最も低かったのは1991年の2.09%です。
対してイタリアの失業率は、2015年時点で12.6%、同じく直近30年で最も高かったのは2014年の12.8%です。最も低かったのは2007年の6.09%です。
両国の2013年のGDPを比べると、日本が4.92兆USドルであるのに対し、イタリアは約半分の2.149兆USドルとなっています。
失業率と生活水準は密接に関係しているといえるでしょう。
失業とは
個人にとって失業とは経済面での大きなトラブルです。これは社会にとっても同じことです。
生産をせず、消費のみを行う失業者の増加は、経済成長を鈍化させ、ひいては社会全体の生活水準を低下させます。
失業について考えるときは、経済が通常状態で経験する「自然失業率」と、その値の周りを失業率が循環する性質を意味する「循環的失業」について考える必要があります。
まとめ
個人にとっての失業→生活水準を著しく低下させる上、自尊心をも奪うもの。
社会にとっての失業→経済成長を妨げるとともに、生活水準の指標となる。
自然失業率→経済が通常の状態で経験する失業率
循環的失業→失業率が自然失業率の周りを変動する性質
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