貯蓄と投資
今回は貯蓄と投資について説明していきます。
この文章を読むことで、「個人と経済学において、どれほど貯蓄・投資の意味が違うのか」について学ぶことができます。
個人レベルの貯蓄と投資の意味
個人レベルで貯蓄といえば、「貯金」を意味することが多いかもしれません。
投資になるとFX投資や株式投資、不動産投資などいろいろな種類があります。
セミナーに通ったり、美容にお金をかけることを「自分に投資する」という言い方もします。
【例題1】
Aさんは毎月の所得20万円のうち5万円を貯金に回し、10万円を生活費に、残り5万円をFX投資に回しています。
ある程度儲けも出ているので「自分もちょっとした投資家だな」と、最近は思うようになりました。
<解説>
個人レベルで言えば、Aさんの場合5万円を貯蓄に、10万円を消費に、5万円を投資に回しているということができるでしょう。
しかし、Aさんのお金の使い方を経済学的に見ると、Aさんは一切投資をしていないということになってしまうのです。
さて、これはどういうことなのでしょうか。
経済学における貯蓄と投資の意味
マクロ経済学の用語では、投資は「設備や建造物といった新しい資本を購入する行為」を言います。
ところが、Aさんはそういった新しい資本は一切購入していません。
また、投資や貯蓄は経済全体の生産性を向上させますが、AさんのFX投資に関してはそのような効果もありません。
したがって、マクロ経済学ではAさんのFX投資は「貯蓄」に分類されます。
「Aさんは10万円を消費に、10万円を貯蓄に回している」とマクロ経済学では言うのです。
【例題2】
B社は今年の売上総利益が2000万円だったので、500万円を貯蓄に回し、1000万円を給与として支払い、500万円で新しい機械を購入することにしました。
<解説>
これをマクロ経済学の言葉で説明すると、1000万円を消費し、500万円を貯蓄し、500万円を投資した、となります。
他にはローンを組んで家を購入した、という場合にも「新しい建造物の購入」なので投資に分類されます。
貯蓄=投資にならない!?
しかし、問題があります。
閉鎖経済の中では貯蓄と投資は同じ値を示すはずです。それは以下の計算式からもわかります。
閉鎖経済でのGDP
GDP=消費+投資+政府支出
→ GDP−消費−政府支出=投資
国民全体の所得=GDPから、家計の支出(消費)と政府の支出を差し引いたものが投資。
所得から支出を差し引いて残った余剰=貯蓄なので、貯蓄=投資。
ところが、前掲のAさんは貯蓄が10万円なのにもかかわらず、投資は一銭もしていません。
あるいはローンを組んで家を購入するということは、投資する分だけ貯蓄があるわけではないということを示します。
早速恒等式「S=I」が崩れたかのように見えます。
しかし心配はいりません。この恒等式はあくまでマクロ経済のものなので、ミクロでもS=Iの恒等式が成立する必要はないのです。
こう考えればうまく整理できます。
Aさんのように月々10万円ずつ貯蓄する人が100人いたとして、ローンで家を買おうとしている人が1000万円のローンを組むとします。
すると、経済全体では1000万円の貯蓄と1000万円の投資というふうに恒等式が成立するようになるのです。
貯蓄と投資の意味
個人レベルの貯蓄は貯金、投資は株式投資などを含む各種投資の他、「自分への投資」といった使い方をされます。
しかし、これはマクロ経済学的には間違った分類です。
マクロ経済では「設備や建造物といった新資本を購入する」ことを投資と呼びます。
そのため株式投資などはこれに該当せず、貯蓄に分類されます。
また、ミクロ視点での貯蓄と投資の不均衡に関しては問題ではなく、「マクロ視点に切り替えれば均衡は保てる」とするのが経済学での考え方です。
まとめ
個人レベルの貯蓄・投資の意味と、マクロ経済学での貯蓄・投資の意味は違うので注意が必要。
マクロ経済学での投資→設備や建造物といった新資本を購入すること
S=Iはマクロで成立していれば問題ない。
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