弾力性とは
今回は弾力性について説明していきます。
この文章を読むことで、「弾力性の概要」と「価格弾力性に影響を与える要因」などについて学ぶことができます。
どれだけ変化するのか
需要曲線や供給曲線の点が移動する時、重要なのは右か左どちらに移動するのかという問題だけではありません。
そこには当然「どれだけ移動するのか」という大きさの問題が含まれています。
「価格の変化に対してどれだけ需要量・供給量が変化するのか」を考える際に用いる概念を「弾力性」と言います。
価格の変化に対して量が大きく変化する場合を「弾力的」「弾力性が大きい」と言い、小さくしか変化しない場合を「非弾力的」「弾力性が小さい」と言います。
ここには同時に、財への依存度も含まれています。
弾力的であるということは、価格が変動すればその財を手放すことも可能であるということなので、依存度は低くなります。
対して、価格が変動しても財を手放せない依存度の高い状況が非弾力的な状況です。
これらを踏まえた上で、どのような要因が価格弾力性に影響を及ぼすのかを以下で見ていきましょう。
需要の価格弾力性を決めるもの
需要の価格弾力性の要因は、何か一つ「これだ」ということはできません。
ここには経済的なものはもちろんのこと、社会的、心理的な要因も含まれてきます。
需要量を決定するのが無数の変数であるのと同様、需要の価格弾力性も無数の要因によって決定されているのです。
例えば、同じ人間でも10万円の貯金が11万円になるのと、100万円の貯金が101万円になるのとでは、前者の方が大きな喜びを感じるはずです。
あるいは、同じ水でも砂漠の真ん中での価格弾力性と、日本国内での価格弾力性には大きな違いが生まれるでしょう。
とはいえ、需要価格弾力性の要因について何一つ語れないというわけではありません。
以下では「代替財」、「必需品と贅沢品」、「市場の定義」、「時間の経過」という4つのトピックを設けて、需要の価格弾力性を決めるものについて考えていきましょう。
密接な代替財
密接な関連性を持つ代替財は、価格弾力性が高くなる傾向があります。
代替財とは例えば、カルビーのポテトチップスとコイケヤのポテトチップスのような、どちらを購入しても大きな違いがない財を言います。
他にはバターとマーガリン、成分無調整牛乳と低脂肪乳などが挙げられるでしょう。
【例題】
カルビーのポテトチップス、コイケヤのポテトチップス、ジャガイモの3つの需要を価格弾力性から考えてみましょう。
<解説>
カルビーとコイケヤのそれぞれのポテトチップスは、個人の嗜好によって議論はあっても、概ねどちらを購入しても大きな違いはありません。
例えば、コイケヤの価格が一定の状況でカルビーの価格が上昇すれば、コイケヤへと需要が流れ、カルビーの売り上げは大きな下落を見せるでしょう。
対して、ポテトチップスの価格が上昇したところで、ジャガイモの売り上げにはほとんど影響がないはずです。
このような場合、カルビーは価格弾力性が高く、ジャガイモが低いと言うことができます。
必需品と贅沢品
必需品は非弾力的、贅沢品は弾力的になる傾向にあります。
必需品といえば、携帯電話の料金や水道代光熱費のほか、トイレットペーパーなどが挙げられます。
対して贅沢品といえば、お酒やタバコなどの嗜好品、高級服などが挙げられます。
【例題】
必需品を携帯電話の料金、贅沢品を高級服として、各々の需要を価格弾力性の観点から見てみましょう。
<解説>
携帯電話は今の時代にはなくてはならない製品です。特に企業の営業などは、携帯電話がなくては仕事にならないでしょう。
したがって、携帯電話の利用料金を数百円あげたところで、その需要は大した反応を見せません。
つまり、必需品というのは非弾力的になるのです。
これは水道代光熱費も同じです。高くなったからといって購入するのをやめるわけにはいかないのです。
対して高級服はどうでしょうか。
高級服でなくとも着られる服はごまんとあります。Burberryやルイヴィトンの服でなくともユニクロや無印良品の服でも、十分着られるのです。
よって、高級服は一般に価格が上がると一気に需要が減少する傾向にあります。
つまり、贅沢品は弾力的な財なのです。
市場の定義と弾力性
次に考えておきたいのは、どの市場を想定するかです。
つまり、市場を広く定義した場合、得てして狭い市場よりも非弾力的になる傾向にあります。
対して、狭く定義すれば価格弾力性は大きくなります。
【例題】
先ほどの高級服にならって、「服」という広い定義の市場と、「ユニクロ」という狭い定義の市場を考えましょう。
<解説>
現在の文明が発達した日本では、服がなければ外を出歩くことができません。
外に出られなければ多くの人は生活に困るでしょう。
服の代替財は簡単には見つからないため、価格が変動しても需要量を大きく変化させることはありません(非弾力的)。
対して、ユニクロは確かに強力な需要を持っていますが、無印良品やH&Mのほかさまざまな代替財が簡単に見つかります。
よって、「服」という広い市場に比べると、どうしても価格弾力性は大きくなるのです(弾力的)。
時間の経過と弾力性
需要を考える際に期間を長くとるほど、需要の価格弾力性は大きくなる傾向にあります。
対して、少しの期間だけを分析対象にすると、比較的非弾力的になる傾向があります。
【例題】
米の1kgあたりの価格が上昇したとします。
数ヶ月から1年程度の短い時間と、20年程度の長い時間の場合を考えてみます。
<解説>
初めのうちご飯党はパンなどに切り替えられず、数ヶ月から1年程度であれば大した需要の変化は起こらないでしょう(非弾力的)。
しかし、20年もの時間が過ぎて世代が交代していくと「お米は高いからパンで済ませる」というようになっていきます。米が贅沢品になるのです。
すると、その需要量は10年ないし20年前と比べて大きく減少しているはずです(弾力的)。
まとめ
密接な代替財→弾力的
必需品→非弾力的
贅沢品→弾力的
市場の定義→広い:非弾力的/狭い:弾力的
時間の定義→長い:弾力的/短い:非弾力的
需要の価格弾力性を計算する
ここまでは価格弾力性が「大きいか小さいか」という抽象的な議論でしたが、ここからは「どれくらい大きいのか、どれくらい小さいのか」をより具体的に考えていきましょう。
需要の価格弾力性は、次の計算式で測定することができます。
ある財の価格が20%上がった際に需要量が40%減少したとすると、上図の【例】のような計算結果を求めることができます。
弾力性2という数字は、価格が1上がるごとにその2倍の需要量が減少していくということを示しています。
需要は反比例の原則に従っているので、場合によってはマイナス2と記す場合もあります。
しかし、基本的には弾力性は絶対値で記します。
変化率の問題
先の計算式のおかげで弾力性を計算できるようにはなりましたが、実際にこの式を使ってみると大きな問題にぶつかります。
それが変化率の問題です。
具体例を挙げて見ておきましょう。
【例題】
たこ焼き市場を想定しましょう。この市場の需要曲線の上には次のAとBの2点があります。
A:価格400円(20個入り)/需要量120万セット
B:価格600円(20個入り)/需要量80万セット
<解説>
AからBに点が移動する時、価格は50%上昇し、需要量は33%減少しています。
先ほどの計算式に基づけば、価格弾力性は33/55(0.66)になります。
これを逆にBからAに移動させると、価格が33%減少するのに伴って需要量は50%増加します。
すると、価格弾力性は50/33(1.5)になるのです。
2点間の移動の方向によって変化率が変動するために、同じ需要曲線上で違う価格弾力性が生まれてしまうのです。
中間点の方法:理論
これを解決するのが「中間点の方法」です。
例題の方法は、最初の点から次の点への移動を、最初の点を基準にして計算するというものでした。
この方法だと、先ほどのように点の移動を逆にした場合に基準が変わってしまいます。
中間点の方法では対象の2点の中間を基準点とすることによって、この問題を解決するのです。
先ほどの例を参考にして具体的に計算してみます。
【例題】
前掲のたこ焼き市場の2点は以下の通りです。
A:価格400円(20個入り)/需要量120万セット
B:価格600円(20個入り)/需要量80万セット
<解説>
AB間の価格の中間点は500円です。
AB間の変化量をこの中間点の500円で割ると、(600-400)/500×100=40%となります。
同様に需要量の変化率を求めると、(120-80)/100×100=40%です。
つまり価格の変動と同じ分だけ需要量が変化しています。この時弾力性は1です。
需要曲線の諸類型と弾力性
次に、需要曲線の形や傾きによって、弾力性がどのように変わるのかを見ていきましょう。
aのグラフは垂直なので、価格がいくら上昇しても需要量は変わりません。この時の弾力性は0です。
対してbのグラフは水平なので、この場合は価格が現時点の価格を上回ると需要量が0になる代わりに、下回った途端需要量は無限に増加していきます。
bのグラフの弾力性は無限大です。
cのグラフは傾きが比較的大きいグラフです。この時の価格弾力性は大きくなりません。
つまり、これは非弾力的なグラフです。
対して、dのグラフのように傾きがなだらかな需要曲線では、弾力性は大きくなります(弾力的)。少しの価格の変化で大きく需要量が変動します。
eのように、価格の変化率と同じだけ需要量も変化するような時、弾力性は1となります。
供給の価格弾力性
需要の価格弾力性とほぼ同じことが供給の価格弾力性についても言えます。
価格の変動に応じてどれだけ供給量に影響が出るかをはかる指標であり、それが大きいほど「弾力的」と言い、小さければ「非弾力的」と言います。
例えば、六本木の土地は非弾力的な財です。いくら価格が上昇しても六本木という区画を増やすことはできないので、供給量を任意に増やすことができません。
対して服やカバン、靴などの財は弾力的であると言えます。価格が上昇し、儲けが増えるのであれば人手を増やすなどして供給量を増加させられるからです。
しかし、この服やカバン、靴、もちろん車やバイク、コンピュータなどの場合でも弾力的な場合と非弾力的な場合があります。
得てして分析対象とする期間が長くなるほど弾力性は大きくなります。
対して短い期間だけを分析すると、どうしても供給は非弾力的になります。
人を雇ったり、工場の敷地を確保したり、いろいろな準備が必要だからです。
これは需要の価格弾力性で見た時間の問題と同じです。
供給の価格弾力性を計算する
供給の価格弾力性を計算する場合も、需要の価格弾力性を計算するときと同じ考え方を用います。
供給の価格弾力性 = 供給量の変化率 / 価格の変化率
この式に基づいて中間点を用いて、弾力性を求めます。
【例題】
焼きそばの市場を想定し、そのときの曲線の2点を以下のように設定します。
A点 300円/600万個
B点 500円/1000万個
<解説>
この時の中間点は400円/800万個です。
これをもとに弾力性を求めましょう。
価格の変化率は(500-300)/400×100=50%です。
対して供給量の変化率は(1000-600)/800×100=50%となります。
よってこの場合の焼きそば市場の弾力性は1です。価格と供給量は常に同じ割合ずつ変化していきます。
供給曲線の諸類型と弾力性
供給曲線においても、傾きや形状に応じて弾力性が変化していきます。
aのようにグラフが垂直の時、供給の価格弾力性は0です。いくら価格が上昇しても生産者は現時点以上の供給が実現できません。
対して、bのようにグラフが水平の場合は現時点の価格を上回った瞬間、供給量は無限に増加しますが、逆に下回ると供給量は0になります。
cのような傾きの急な曲線では、価格が上昇しても供給量はあまり増加しません。これは非弾力な市場です。
対して、弾力的な市場とはdのような市場を言います。少し価格が変動するだけで供給量が大きく変化しています。
eのグラフは先ほど見た焼きそばの市場と同じ、弾力性が1の時の曲線です。
弾力性とは
弾力性とは、経済学においてはある要素の変動に伴って、別の要素がどれだけ変化するのかを測るものです。
価格弾力性といった場合、それは価格の変動に伴って他の要素がどれだけ変動するのかを見る数値になります。
その要素が需要であれば「需要の価格弾力性」、供給であれば「供給の価格弾力性」と呼びます。
これらは分析の対象となる財の性質や、市場の定義、時間の問題によって大きく変わります。
まとめ
弾力性→ある要素の変動が別の要素にもたらす影響力
価格弾力性→価格の変動が別の要素にもたらす影響力
【需要・供給の価格弾力性の計算式】
需要・供給の価格弾力性 = 需要・供給量の変化率 / 価格の変化率
中間点の方法→2点間の中間の点を基準とし、価格・取引量それぞれの変化量を中間点の値で割る。
【弾力性とグラフの形】
弾力性ゼロ→垂直
弾力性無限大→水平
弾力的→弾力性<1
非弾力的→弾力性>1
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