均衡変化の分析
今回は均衡変化の分析について説明していきます。
この文章を読むことで、均衡変化を分析するときの3段階のアプローチについて説明しています。
均衡を分析するための3段階
市場は需要と供給で成立しており、2つが均衡するところで価格が決定されます。これはほとんどの自由市場において法則となっています。
均衡価格に対して市場価格が高い場合には、市場の調整によって価格は下がり、均衡取引量に対して市場取引量が少ない場合には同様に取引量は増加します。
しかし、これはグラフで言えば需要ないし供給曲線上での移動です。
つまりは「価格」「取引量」という二つの変数によってもたらされる変化なのです。
ところが、経済はこの二つの数だけで全ての事象を成立させているわけではありません。
「それ以外の要素=第三の変数が変化した場合に、均衡点に対してどのような影響を及ぼすのか」これを理解する必要があるのです。
そのために、私たちは3つの段階に分けて、事象を分析しなくてはなりません。
第一に、「第三の変数の変化が需要曲線をシフトさせるのか」、あるいは「供給曲線をシフトさせるのか」、あるいは「その両方をシフトさせるのか」を考えます。
第二に、「その曲線がシフトする方向は左なのか右なのか」について考えます。
第三に、「需給曲線の図において新旧の均衡点を比較し、曲線のシフトによって均衡価格と均衡取引量にどういった影響を与えるのか」を分析するのです。
これによって「何が」「どのように」「どういった」変化をもたらすのかがわかるのです。
以下ではこの3段階アプローチを具体的に実践してみましょう。
需要をシフトさせると
はじめに見るのは「需要曲線をシフトさせた場合の市場均衡の変化」です。
【例題1】
あるフランクフルトの市場では買い手は一本200円で販売されている時、7万本のフランクフルトを購入します。
対してフランクフルトの価格が150円になった時は10万本の購入量を記録します。
逆に250円になると4万本になります。
対してフランクフルトの売り手は200円の時は7万本を販売しますが、150円になると利ざやが削られるのであまり売りたがらず、4万本に供給量を減らします。
しかし、価格が250円になると売れば売るほど儲けが出るので、10万本売ろうとします。
この時このフランクフルト市場の買い手と売り手の需要表・供給表は次の通りです。
均衡価格は200円、均衡取引量は7万本です。
この市場においてある年、フランクフルトを食べると脳が活性化して美容・健康に良いという内容の研究が発表されました。
<解説>
このフランクフルト健康食品説の流布は、フランクフルト市場にどのような影響をもたらすでしょうか。
3段階アプローチで考えていきましょう。
1.需要曲線がシフトします。
フランクフルトが健康食品だという説は、買い手側の嗜好に劇的な変化をもたらします。これにより、買い手はフランクフルトを買いたいという気持ちを刺激されるでしょう。
対してフランクフルトが健康食品という説が流れても、売り手には直接的な影響はないため、供給曲線はシフトしません。
2.この時需要曲線は右にシフトします。
フランクフルトに「健康食品」という付加価値がついたため、同じ価格でも欲しいと思う買い手が増えているからです。
そのためグラフ1のようにD1→D2へのシフトが起こります。
3.この時、均衡点は(7.200)から(10.250)へと移動しています。
均衡取引量が3万本増、均衡価格は50円増となっています。
これは価格が200のままだと売り手側にとっては超過需要であり、在庫不足が懸念されます。そのため売り手は価格を250円に引き上げます。
よってD1→D2への均衡点のシフトが起きます。
これらのことからフランクフルト健康食品説の流布はフランクフルト市場において、均衡価格を上昇させ、均衡取引量も増加させることがわかります。
曲線のシフト・曲線上の移動
ここで理解しておきたいのは次の二項の違いです。
・ 「供給が変化(シフト)した」「需要が変化(シフト)した」
・ 「供給量が変化した」「需要量が変化した」
前者の場合、価格以外の固定されている要素が変化していることを意味します。
前掲の例のような「フランクフルト健康食品説」の流布や、革新的な機械が開発されるなどの技術進歩、異常気象など、その要因は様々です。
フランクフルトの例では、需要に影響する要素が変化したため、「需要がシフトした」のです。
しかしこの時、供給はシフトしていません。
供給はシフトしないまま、ただ曲線上を移動して新しい均衡点へと取引量を調整しています。
この場合を「供給量が変化した」と言います。
曲線のシフトは新たな均衡点をもたらし、それに伴って曲線上の移動(=量の変化)が起きるのです。
この二項を混同せずに理解するだけで、均衡の分析は随分シンプルになります。
供給をシフトさせると
それでは次に供給を変化=シフトさせた場合の例を見ておきましょう。
基本的に考え方は同じですが、売り手の心理と経済事象がリンクしている点と、前述の「シフト」と「量の変化」に着目しながら考えてみましょう。
【例題2】
この市場においてある年、フランクフルトに使うケチャップの原料であるトマトが世界的に値上がりし、それに伴ってケチャップの価格が上昇したとします。
<解説>
このケチャップ値上がり事件は、フランクフルト市場にどのような影響をもたらすでしょうか。
3段階アプローチで考えていきましょう。
1.供給曲線がシフトします。フランクフルトの販売に重要なケチャップが値上がりすると、供給のための総コストが上昇します。
すると同じ利ざやを確保するためには売り手は価格を上げざるを得ません。
なお、このケチャップの値上がり=投入物の値上がりは、座標平面上に想定されていない変化なので、点はグラフ上を移動せず、曲線ごとシフトします。
また生産コストの上昇は直接的には需要に影響しないので、需要曲線はシフトしません。
2.供給曲線は左にシフトします。
売り手は利益確保のために同じ価格での供給量を抑えています。そのためグラフ2のようにS1→S2へのシフトが起こります。
3.均衡点は(7.200)から(4.250)へと移動しています。
したがってこの時均衡価格は200円から250円にシフトし、均衡取引量は7万本から4万本へとシフトしています。
これは供給曲線のシフト後に超過需要が発生しているからです。
「需要と供給の法則」に基づけば、均衡点は需要曲線上を左上に移動します。
よってケチャップ値上げ事件はフランクフルト市場において、均衡価格を上昇させ、均衡取引量を減少させることがわかります。
需要と供給をシフトさせると
引き続き、今度は需要と供給がどちらもシフトした場合を考えてみましょう。
このとき、価格以外の変数は需要と供給どちらに対しても直接的に影響をもたらしています。
【例題3】
フランクフルト市場において「フランクフルト健康食品説」と「ケチャップ値上がり事件」が同時に起きたとしましょう。
この場合、どのように均衡点は変化するでしょうか。
<解説>
1.需要と供給、どちらの曲線もシフトします。
フランクフルトを食べれば美しくなれる、健康になれると信じた買い手は市場全体の需要量を増加させ需要曲線をシフトさせます。
ケチャップの値上がりによって利ざやが減少すると考えた売り手は市場全体の供給量を減少させ供給曲線をシフトさせます。
2.シフトの方向はここまで見てきたのと同じです。需要曲線は右に、供給曲線は左にシフトします。
3.このシフトによる均衡変化は、2通り考えられます。
仮に需要曲線のシフトの方が大きい場合、つまり市場に与える影響が「健康食品説」の方が大きかった場合は、グラフ3aのように均衡価格も均衡取引量も増加します。
対して供給曲線のシフトの方が大きい場合、すなわち「値上げ事件」の方が市場への影響力が強かった場合は、グラフ3bのように均衡価格を上昇させ、かつ均衡取引量を減少させます。
よって需要が増加し、かつ供給が減少するとき、均衡価格は常に上昇しますが、均衡取引量に関しては各々の市場への影響力に依存するということがわかります。
まとめ
均衡変化を分析するときの3段階のアプローチ
1.ある出来事が需要曲線・供給曲線どちらをシフトさせるのか
2.そのシフトはどちらの方向に起きるのか
3.曲線のシフトはどのような均衡変化を起こしたのか
→需要と供給がどのように変化するかで均衡変化は左右される。
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