投資インセンティブ
今回は投資インセンティブについて説明していきます。
この文章を読むことで、「政策と投資の関係」「貯蓄・投資への政策の有効性」について学ぶことができます。
政策と投資の関係
一国の生活水準、例えばGDP値や経済成長率などは、生産性の質によって大きく変動します。
この生産性を高める要因として、貯蓄の他に「投資」も挙げられます。いくら貯蓄が増加してもそれが投資へとつながらなければ全く意味がないからです。
この「投資」を増加させれば国の生活水準があがるのであれば、政府は投資を増加させるための施策を講じないわけにはいきません。
政策立案者は貯蓄の時と同様、「投資を増加させるためのインセンティブを持った政策」を打ち立てねばなりません。
【例題】
投資奨励策の中には投資税額控除という制度があります。
「新工場の建設や真設備の導入などを行った企業に対して税制上の優遇措置をとる」というものです。
では、この奨励策を講じた場合、貸付資金市場はどのように変化するのでしょうか。
<解説>
奨励策によって需要と供給どちらに影響が出るかというと、需要です。
投資をしたいのは貸付資金市場では需要側。「投資がしたくなる施策」が講じられれば需要量は増えるので、需要曲線は右側にシフトします(矢印1)。
逆にいくら投資がしたくなっても、供給側=貯蓄には直接影響がないので供給曲線に変化はありません。
「欲しい人」が増えるほど財・サービスの価格が上昇するのと同じように、「投資したい人」が増えるほど貸付資金の利子率は上昇します(矢印2)。
利子率が上昇すれば貸し手も貸したくなりますから、供給量も上昇します(矢印3)。
これらのことから投資奨励策に成功すると利子率は上昇し、かつ投資量も増加します。
日本の投資奨励政策
日本の投資奨励政策の一つは、「中小企業投資促進税制」です。
これは「機械装置などの対象設備の取得や製作などに対して、取得価額の30%の特別償却、又は7%の税額控除をしてもらえる」というものです。
個人事業主や資本金3000万円以下の法人に関しては、「税額控除割合を10%にする」という措置もあります。
あるいは「生産性向上設備投資促進税制」も、「質の高い設備への投資については、即時の償却か最大5%の税額控除の適用が受けられる」制度です。
この制度には対象者に制限がないので、大企業が利用することも可能です。
このように、生産性を向上させようと努力する企業に対して税制上の優遇措置をとることで、より積極的に投資を行えるようにしているのです。
貯蓄・投資への政策の有効性
貯蓄に対して奨励政策を講じると、貯蓄の増加を招き、利子率の低下と投資量の増加を実現できます。
投資奨励政策を講じれば、投資が増加し、利子率の上昇と投資量の増加が期待できます。
理論的には貯蓄に対して奨励策を講じても、投資に対して講じても、結果は投資量の増加となります。
これは、冒頭で述べたように生活水準の向上にもつながるでしょう。
しかし、貯蓄インセンティブの項でも書いたように、ここには「公平性の問題」が常に横たわっています。
投資奨励策にしても中小企業だけ、大企業だけなどといった制限を設ける場合には、政策立案者の慎重な判断が必須になります。
政府が効率重視の運営を行えば、十中八九弱者が被害を被ります。
そのことに注意して政策を評価する必要があります。
投資インセンティブ
投資を増加させるためには、投資への正のインセンティブを与える必要があります。
このインセンティブを含む政策を講じれば、市場の均衡利子率は上昇し、投資量も増加します。
ただし、貯蓄奨励策とともに、効率性だけでなく公平性の観点から政策の評価を注意深く行う必要があります。
まとめ
投資を増加させれば生活水準が向上する。
投資奨励策で利子率は上昇し、かつ投資量も増加する。
貯蓄奨励策・投資奨励策ともに、立案する際には効率性だけでなく公平性も十分に加味する必要がある
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