GDP(国内総生産)とは
今回はGDPについて説明していきます。
この文章を読むことで、国内総生産の測定や定義について学ぶことができます。
国内総生産を測定するには
国内総生産は、その国の経済の状況を知るには最も分かりやすい尺度の一つです。
では、この国内総生産はどのようにして測定するのでしょうか?
詳細な方法は各国とも非公開となっていますが、おおまかなアウトラインを見ておきましょう。
国内総生産の定義とその意味
まずは国内総生産の定義をしておきます。
「一定期間において、一国内で生産されるすべての最終的な財・サービスの市場価値」
一見すると非常にシンプルです。
つまるところ、2000年とか、2001年といったスパンの、日本やアメリカといった国で、どれだけの価値が作られたのか、という数値なのです。
しかし、この短い40字にも満たない定義を細かく見ていくと、その微妙な表現を理解していなければ正確な理解はできないことがわかります。
そもそもこの定義全体からして、「なにもかも、一切合切を単一の市場価格という尺度で測る」と宣言するものなのです。
「私と仕事、どっちが大事なの!?」というよくある詰問に対して、これまた定番の回答は「どっちかなんて選べない」ですが、GDPの考え方に基づけばどちらかを選ぶことができるのです。
「私」の価値が1000万円で、「仕事」の価値が2000万円なのであれば、仕事を選ぶことがGDPへの貢献に繋がると考えます。
みかんとりんご、ランボルギーニとフェラーリ、バスケットボールとサッカーボール、すべて単一の尺度で見るのが国内総生産です。
「一定期間」とは
では、定義の最初にある「一定期間」とは何を指すのでしょうか。
一般的には2012年や2013年などの1年間を指しますが、それだけではありません。
2012年3月期もあれば2012年6月期、9月期、12月期もあります。これは四半期(3ヶ月)での国内総生産を測ります。
注意したいのは、四半期でGDPを発表するときは一般的には「年率の」GDPを発表します。
つまり、2012年3月期のGDPが120兆円だとするなら、その時発表される数字は480兆円となります。
これによって四半期の数値と年率の数値を素早く簡単に比較できるからです。
もう一つ注意すべきなのは、四半期のGDP数値には「季節調整」と呼ばれる手続きが施されているという点です。
この手続きは「季節変動」という1年を周期として定期的に経済に起こる現象を排除するものです。
これによって経済分析をより正確に行うことができます。
例えば、ビールは夏によく売れて、冬にはあまり売れないというのも季節変動です。
あるいは6月や12月といったボーナス時期に消費が伸びたり、ボーナス前に買い控えが起きたりするのも季節変動です。
これらの季節変動を鵜呑みにしていては本当の景気は見えてこないため、季節調整を行うのです。
公表されるデータは基本的にこの手続きが終えられたものになります。
「一国内で」とは
次の文言「一国内で」とはもちろんアメリカや日本、ウルグアイにポルトガルといった「国」を指します。
当たり前のことに聞こえますが、これを厳密に見るとなると、少し話がややこしくなります。
例えば、日本国民がアメリカで働いて何かを生産したとすると、それはどこのGDPとして加算されるのでしょうか?
あるいは日本国民がカンボジアに生産拠点を持っている場合、その工場の生産物はどこのGDPになるのでしょうか?
前者の場合はアメリカのGDPに、後者はカンボジアのGDPに加算されます。
この「一国内で」とは「国籍」のいかんにかかわらず、地理的な基準における「国」を区分けの定義としていることを覚えておきましょう。
「生産される」とは
「生産される」をこれ以上説明するなんて馬鹿げていると思うかもしれませんが、これにもはっきりさせておくべきことがあります。
それは「新たに生産されたもののみを指す」という点です。
例えば、出版社がある書籍を10000部印刷したとすると、その書籍の価値×10000のGDPが生産されたことになります。
これは新たに生産された価値だからです。
しかし、この書籍をAさんがBさんに中古で販売しても、それは新しい価値を生産したことにはならないので、GDPには含まれません。
「すべての」とは
では「すべての」はどういう意味なのでしょうか。
これは存外定義の難しいところです。
冒頭で見たように、みかんもりんごも、ランボルギーニもフェラーリも、あるいは白菜もみりんも、釘もバットも、あるいは散髪もエステもカラオケも、ライブや舞台も、GDPの言う「価値の生産」に当てはまるのです。
これらの例はわかりやすいですが、例えば住宅サービスの市場価値となると少しイメージしにくいかもしれません。
貸家の場合は家賃という形で価値がやりとりされます。借主にとっては支出、貸主にとっては所得です。
対して持ち家の場合は、「自分自身に貸している」という考え方をとります。
これを政府が家賃評価額として計算し、GDPに加算するのです。
あるいはこの「すべて」に含まれないものもあります。
それは非合法のドラッグやハーブ、拳銃といった法を侵した生産や販売です。
これらは本来「市場にでてこない」ものなので、GDPには加算できません。この意味で、家事や家庭菜園といった「市場に出てこない」ものもGDPでは計算しません。
例えば、水道修理工Xがトイレの修理を2万円で請け負っていたとします。ある時Yさんがトイレの不具合に気づき、Xに修理の依頼をしたとします。
当然ここでは「トイレの修理」と「2万円」が交換され、そのサービスはGDPとして計算されます。
しかし、このことがきっかけでXさんとYさんの間に恋が芽生え、二人がめでたく結婚したとします。結婚から3年後、二人の家のトイレが壊れたとしましょう。
すると、Xさんはいとも簡単に修理してしまいます。しかし、この時のこのサービスはGDPに含まれません。
この時Xさんのサービスは市場にはでない、Yさんだけのためのものだからです。
この意味では二人の結婚はGDPにとってはマイナスとなります。
「最終的な」とは
「最終的な」はつまるところ、「生産された最後のもの」という意味です。
例えば、小麦農家が小麦を生産し、麺業者が中華麺を生産し、ラーメン屋がラーメンを生産するとき、最終的な財(最終財)はラーメンです。
対して小麦や中華麺を「中間財」と呼びます。
GDPにおいてはこの最終財、ラーメンの価値だけを生産します。
なぜならば、最終財には中間財の価値も含まれているからです。
仮に小麦や中華麺の価値も加算すると、二重三重に間違って計算してしまいます。
注意したいのはあるとき中間財でも、在庫になった時にはそれが最終財となるという点です。
つまり、先ほどの小麦がすぐには出荷されず、在庫となった時、この小麦は最終財となりGDPにその価値が含まれるようになります。
「財・サービスの」とは
財はみかんもりんごも、ランボルギーニやフェラーリも、あるいは白菜にみりん、釘やバットも含みます。
サービスは散髪やエステ、カラオケにライブ、舞台や映画を指します。
GDPはこの双方を含むのです。
支出と所得について
ここまで国内総生産の定義を、どれも支出に対しての視点で説明してきました。
ここで「経済全体にとって支出と所得は同値である」という定義を思い出しましょう。
つまり、「一定期間において、一国内で生産されるすべての最終的な財・サービスの市場価値」には総所得も含まれているのです。
どこかで使われたお金は必ずどこかで誰かの所得になっているからです。
よって、政府は総支出に加えて総所得の計算も行います。
この両者は「ほぼ」同じ値となります。「ほぼ」というのは両者のデータの出処は常に明瞭でないからです。
この誤差を「統計的不突合」と言います。
国内総生産の測定
国内総生産の定義は「一定期間において、一国内で生産されるすべての最終的な財・サービスの市場価値」です。
市場価値という単一の基準で何もかもを測るのです。
「一定期間」「一国内」「生産される」「すべて」「最終的」「財・サービス」の6つの言葉をより詳細に定義することで、国内総生産をより正確に捉えることができます。
まとめ
「国内総生産」→一定期間において、一国内で生産されるすべての最終的な財・サービスの市場価値
「一定期間」→1年間、および四半期。季節調整などに注意する。
「一国内」→地理的な基準における「国」を区分けの定義としている。
「生産される」→新しく生産されたものに限る。
「すべての」→市場に出てこないものは含まない。
「最終的」→最終財を指す。中間財も在庫になれば最終財になる。
「財・サービス」→女優の写真集(財)も女優の舞台(サービス)もGDPである。
GDPは総支出・総所得の両方が計算される。
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