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職探しと失業保険

今回は職探しと失業保険について説明していきます。

 

この文章を読むことで、「摩擦的失業がなくならない理由」や「公共政策と職探しの関係」について学ぶことができます。

 

なぜ職を探すのか?

 

現在の日本では、大学生はある時期になればこぞって合同説明会に出かけ、血眼になって職探しをするのが慣例になっています。

 

あるいは学生でなくとも、終身雇用という慣習が崩壊した今の日本では、転職やリストラ、あるいは倒産などで職探しをするきっかけはいくらでもあります。

 

では、この「職探し」は経済全体にとってはどんな影響があるのでしょうか。

 

摩擦的失業がなくならないワケ

 

仮に、世の中のすべての人間の能力と適性、そして趣味趣向が同じなのであれば職探しはほとんど必要がなくなります。

 

したがって、仕事と労働者の間に起きる摩擦が原因の失業(摩擦的失業)は、ごく短い期間で解消できます。

 

雇う側からすれば「だれを雇っても同じ」で、雇われる側からすれば「どんな仕事でも同じ」だからです。

 

しかし、現実は違います。能力にも差があれば向き不向きもあります。趣味趣向ももちろん違います。

 

雇う側は応募者を吟味しなくてはいけませんし、雇われる側もその仕事がどの程度自分の希望するものなのかを精査する必要があります。

 

さて、ここではもう少しこの摩擦的失業がなくならないワケを具体的に見てきましょう。

 

労働需要の変化で起きる

 

この種の失業は、異なる企業が労働需要を変動させることでおきます。

 

例えば、ダイハツの軽自動車が大人気を博し、工場をフル稼働させても生産が追いつかない状況になったとします。

 

するとダイハツは人員を増加させようとするでしょう。

 

対して、他の軽自動車を作っているスズキなどの工場では過剰な人員を削減するようになります。まず、この人員削減によって失業が生じます。

 

また、スズキなどの工場の作業員はダイハツの求人に応募しますが、その全員を雇うわけではありません。

 

したがって、失業がダイハツに就職したことで終了する人もいれば、そのまま継続期間を延長せざるを得ない人も出てきます。

 

部門間シフトで起きる

 

ある市場の変化が関連する市場の摩擦的失業を引き起こす場合もあります。

 

例えば大豆の価格が世界的に下落すると、そのままでは採算が取れないと判断したある国の大豆農家は、大豆の生産量と雇用量を削減します。

 

しかし、価格の下落は豆腐屋にとっては朗報です。生産量を増やし雇用量も増やすでしょう。

 

このような産業間及び地域間の労働需要の構成が変化することを「部門間シフト」と呼びます。

 

大豆農家の従業員が豆腐屋にすぐに就職できるはずもなく、彼らは一時的に失業者となり、経済全体の摩擦的失業を増加させます。

 

 

このように、摩擦的失業は単純に経済の構造が変化すれば起こりうるものなのです。

 

もちろん、「俺にはもっと活躍できる場所がある」「もっと給料の高いところで働きたい」といった好みや賃金などの都合で転職活動のために離職した場合も、摩擦的失業は増加します。

 

したがって、摩擦的失業を完全になくすのは不可能なのです。

 

職探しと失業保険1

 

公共政策と職探しの関係

 

しかし、「完全になくす」のが不可能だというだけであって低減することは可能です。

 

就活サイトの発達

 

民間レベルで言えば、就活サイトの発達は現在の職探しのスタンダードとなっています。

 

これまでは紙媒体の求人票や自分の足で探す必要があったものが、場合によってはスマートフォンの画面上で面接にまでこぎつけることができる時代になりました。

 

これは失業期間の短縮を実現し、摩擦的失業の低減、そして自然失業率の低減につながります。

 

このような状況は公共レベルでも起きており、ハローワークの求人票のネット閲覧が可能になったことは、自然失業率にも少なからぬ影響をもたらしています。

 

公共政策としての職業訓練実施

 

あるいは職業安定所が実施している職業訓練支援なども、失業から就職までのタイムラグを削ることに一役買っています。

 

もちろん職業訓練を受けなくとも就職できる人たちもいます。

 

しかし、そのままでは就きたい仕事に就けない上、そのためのスキルを磨くための経済力もないという人々もいます。

 

そのような社会的に不利な立ち位置にある人々を救済する制度として、職業訓練支援制度をはじめとする公共政策は重要な役割を果たしています。

 

公共政策は必要ない?

 

しかし、こういった政策に批判的な人たちも当然います。

 

その人たちは政府の介入なしに行われる職業のマッチング、例えば前掲の就活サイトや大学の就職課、他にはネットの口コミやヘッドハンティングなどの方がより最適なマッチングが行えると主張します。

 

政府が行う職業訓練やマッチングよりも、民間によって行われるマッチングや職業訓練などの方が的確な結果を導けるというわけです。

 

この主張は「市場が経済をよりよくする」という前提に基づいています。

 

とはいえ、そういった市場原理からはじきだされた人たちのための公共政策ですので、一定程度この種の施策の有効性は認められるでしょう。

 

失業保険の毒

 

しかし、こういった批判をする人たちが正しい場合もあります。

 

それが失業保険の持つ「毒」です。

 

失業保険はもちろん失業を増やすために実施されるものではありませんが、確かに失業を増やす効果を持っています。

 

これは経済学の十大原理の一つ、「人々は様々なインセンティブに反応する」と関係してきます。

 

仕組みは単純です。失業保険は新しい仕事に就くと、手当が貰えなくなります。

 

このマイナスのインセンティブは、あまり魅力を感じない求人に手を出さなくなったり、そもそも就職活動へのモチベーションを下げたりします。

 

「どうせ働かなくてもお金をもらえるんだったら、働かないでいいや」というわけです。

 

あるいは「辞めても失業保険をもらえるからいいや」ということで安定雇用を雇用先に求めなかったり、あるいはすぐに辞めてしまったりと、失業によって被るリスクを考えなくなるというマイナス面もあります。

 

失業保険は「毒」なのか

 

このように書くと、あたかも失業保険とは「仕事がしたくなくなる毒」でしかないように思えてきます。

 

確かに失業保険が失業を増加させる要素を含んでいることは否定できません。

 

しかし、失業保険は元来失業を減少させるための施策ではないのです。その役割は労働者にとっての「失業」というリスクに対するセーフティーネットなのです。

 

この意味では失業保険という制度は、しっかりとその役割を果たしているのです。

 

またこの制度がなければ、経済的な理由から「仕事ができればなんでもいい」と捨て鉢になってしまうと、労働者のスキルや適性に合わない仕事に就いてしまう危険もあります。

 

失業保険は労働者が経済的理由で人生の選択を狭められることのないよう、市場を是正する役割も担っているのです。

 

日本の失業保険制度

 

日本では失業保険を雇用保険と呼んでいます。

 

内実は失業保険と同じで、一定期間以上勤めた場合はその収入に応じて50〜80%の金額を日割で給付してくれるというものです。

 

これだけではここまで見てきたような失業保険の「毒」は健在です。

 

しかし、雇用保険には「再就職手当」という制度があります。

 

これは、雇用保険の給付がまだ残っている状態で就職をすると、残りの手当の50%〜60%の額がまとめて支給されるという制度です。

 

つまり「働かなくてももらえたお金」をある程度少なくすることができるのです。これにより、失業保険のマイナスのイニシアチブを軽減しているというわけです。

 

このような制度は日本以外の国でも採用されています。

 

職探しと失業保険2

 

職探しと失業保険

 

労働需要の変化や部門間シフトの発生、あるいは転職などで私たちは「職探し」の必要に迫られる場合があります。

 

そのため、経済は絶えず摩擦的失業を抱えることとなります。

 

しかし、経済はこれを放置しているわけではありません。

 

インターネットの普及による就活サイトの発達やハローワークの求人票電子化、あるいは公共政策としての職業訓練などによって、摩擦的失業は低減できます。

 

あるいは政府は失業保険制度によって、失業による労働者の経済的負担を軽減し、よりよいマッチングのサポートをすることもできます。

 

しかし同時に公共政策のために的確でないマッチングや、失業の増加が起きる場合もあります。

 

とはいえ、公共政策によって経済的弱者のサポートが実現でき、失業保険によって失業リスクを軽減できていることを思えば、一概に失業における政府の役割を否定することはできません。

 

まとめ

 

・摩擦的失業がなくならない理由→単純に経済の構造が変化すれば起こりうるものだから

 

・摩擦的失業を低減する方法→インターネットの普及や職業訓練などを通じて失業から就職までのタイムラグを削る

 

・失業における公共政策の評価→最適な施策を講じるのは難しいが、社会的弱者の負担軽減には効果を発揮している。

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