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総供給曲線

今回は総供給曲線について説明していきます。

 

この文章を読むことで、「総供給曲線の概要」と「長期の総供給曲線のシフト要因」について学ぶことができます。

 

総供給曲線のカタチ

 

長期の場合にも短期の場合にも右下がりのカタチをとる総需要曲線に対し、総供給曲線はどのようなカタチをとるのでしょうか。

 

座標軸にとる数値は総需要曲線の時と同じ、縦軸=物価水準横軸=産出量です。

 

総供給曲線は分析対象とする経済が、長期か短期かによってカタチを変える性質があります。

 

長期の場合は垂直に、短期の場合は右上がりになります

 

ここでは長期の場合の総供給曲線について考えておきましょう。

 

総供給量を決めているのはなに?

 

まず、「どうして長期の総供給曲線が垂直のカタチをとるのか」について説明します。

 

端的に言えば、長期における総供給曲線は物価水準の変動の影響を受けないからです。

 

総供給と物価水準の関係について改めて見ることで、この説明の補足をしておきましょう。

 

 

では「総供給」とは、果たして何によって決定されているのでしょうか。

 

それは4つの要素、すなわち労働力資本天然資源技術知識です。

 

経済における作り手が増えれば全体の「作られるもの=供給」は増加しますし、作るための元手=資本が増えれば供給量も増加します。

 

また、生産において非常に重要な位置を占める天然資源の有無・多寡も同様で、経験やテクノロジーが蓄積されるほど生産性は向上するため供給は増加します。

 

長期の総供給曲線が垂直になるワケ

 

これらを見てみると、あることに気づくはずです。

 

そう、「物価水準」は総供給を決定する要因には含まれないのです。

 

例えば、ある年に貨幣供給量を2倍にして物価水準が2倍になったとします。

 

仮に、この経済において貨幣供給量以外が一切変動しないとするならば、10年たっても労働力・資本・天然資源・技術知識もそのままなので総供給量は変化しません。

 

総供給曲線1

 

これをグラフにすると上図のようになります。

 

つまるところいくら物価水準が乱高下しようとも、総供給曲線にはなんら影響は出ないのです。

 

古典派の主張は正しいのか?

 

このグラフは長期における総供給曲線の性質を表すと同時に、古典派が提唱する「古典派の二分法」を見事に体現しています。

 

古典派の二分法は「名目変数と実質変数の間には関係性はなく、文字通り経済の実質を示す実質変数に注目するべきだ」という考え方です。

 

彼らの言う通り、このグラフにおいて実質変数である総供給量に対して名目変数である物価水準はなんら影響を及ぼしていないのですから、一見して古典派の主張は正しいように見えます。

 

しかし、ここまで再三書いてきたように、古典派の二分法は長期における経済分析には役立っても短期におけるそれには何の役にも立ちません。

 

つまり、短期の経済を仮にグラフにするとすれば、少なくとも垂直ではないというわけです。

 

長期の総供給曲線のシフト要因

 

とはいえ、のちに説明する短期の総供給曲線について理解するためには、もう少しこの長期の総供給曲線についての理解を深めておく必要があります。

 

長期の産出量はその経済が持っている本来の生産能力をしめすため、潜在的産出量完全雇用産出量と呼ばれます。

 

また、この「本来の生産能力」というのはその経済の失業率が自然失業率になっている時です。よって自然産出量とも呼ばれます。

 

この自然産出量を水準として総供給曲線のシフトを考える場合、やはり総供給を構成する4つの要素についてよく理解している必要があります。

 

労働によるシフト

 

労働力が変動すると、総供給曲線はシフトします。

 

例えば、頑なに移民を受け入れず、戦争中に強制連行してきた外国人にすら選挙権を認めない国があるとします。

 

こんな意固地な国がある時、先進的な首相を選挙で選び移民受け入れを開始したとします。するとたとえ出生率が低くても、一気に労働人口が増加します。

 

すると経済の生産性が向上し、産出量が増加するため、総供給曲線は右へシフトします。

 

もちろん、これとは逆に全国で原因不明の感染病が広まり、多くの労働人口が死亡すれば、総供給は左へシフトします。

 

また、自然失業率が変動しても総供給曲線はシフトします。

 

なぜなら、自然失業率はその経済の自然産出量を左右するからです。

 

例えば、それまでは手厚い失業保険制度が整備されていることで知られていた国が、突然「明日からは失業保険を大幅に縮小します」という発表をすれば、失業者はこぞって職を求めるようになります。

 

すると、自然失業率が低下し、自然産出量は増加、総供給曲線は右にシフトすることになります。

 

資本によるシフト

 

資本が変動しても総供給曲線はシフトします。

 

資本が増加すると生産性が向上するため総供給量は上昇、資本が減少すると生産性は低下するので総供給量は低下します。

 

前者であれば右に、後者では左にシフトします。

 

例えば、「投資支出に関しては税金を免除する」という法律が施行されたとします。

 

すると、企業はこぞって工場や製造機械などを購入するでしょう。すると経済全体の生産性が向上するため、全ての労働力を活用した際の生産量が増加します。

 

あるいは国が政策として公立大学の数を拡充し、より優秀な人材の育成に努めたとします。

 

すると一人当たりの生産能力が高い人材が増加するため、経済全体の生産性も向上します。結果、総供給曲線が左側にシフトします。

 

逆に、投資支出に重税をかけるだとか国立大学を旧帝国大学のみに削減するといった政策が適用されれば、総供給曲線は右側にシフトします。

 

天然資源によるシフト

 

天然資源が生産性に及ぼす影響はそれほど大きくはありませんが、やはり経済によっては大きく総供給曲線をシフトさせる要因になります。

 

例えば国のあちこちで油田が発見されれば、その分だけ石油の生産量が増加するため、総供給曲線は右側にシフトします。

 

あるいは、地球温暖化が進行して今まで作れていた作物が作れなくなれば、総供給量は減少、総供給曲線は左へとシフトします。

 

ところで、日本は自国で使うほとんどの石油を海外からの輸入に頼っています。

 

ここで、例えばUAE(アラブ首長国連邦)が自国からの石油輸出に規制をかけたとします。

 

すると、石油を燃料として生産活動を行っている日本の企業は、あっというまに供給能力を低下させるでしょう。

 

このような事態が起きると総供給曲線は右側にシフトします。

 

技術知識によるシフト

 

技術知識は時に経済の生産性を大きく変動させるため、それにともなって総供給曲線もシフトします。

 

例えば、携帯電話が発明されて人と人の意思疎通がより容易になると、仕事の生産性が格段に向上します。

 

であれば総供給量は増加し、総供給曲線は右へとシフトするでしょう。これは車の発明やコンピュータの発明などでも同様です。

 

逆に「どこにいても電話がかかってくるという状況は労働者の精神衛生上非常に問題である」として、政府が携帯電話の使用を全面的に禁止したとします。

 

すると生産性は著しく低下し、総供給曲線は左へとシフトします。

 

総需要曲線と総需要曲線を用いたインフレ理解

 

ここまでの総供給曲線についての考え方と総需要曲線についての考え方を使うと、長期におけるインフレーションへの理解を深めることができます。

 

物価水準の上昇に伴って経済の産出量が増加するには、特に「技術進歩」と「貨幣供給量の増加」が重要な要素となります。

 

例えば、革命的な技術が開発されて生産性が向上し、産出量が増加すれば経済上で動くお金の量(貨幣供給量)が増加します。

 

貨幣供給量が増加するということは、1枚の貨幣の希少価値は低下するため、貨幣価値の低下につながります。

 

すると物価水準は上昇し、結果として経済の産出量は増加し、かつ物価水準が上昇するというインフレーションが起きるというわけです。

 

総供給曲線2

 

この長期の総供給曲線の動きを踏まえた上で、短期の総供給曲線がどのような変化を見せるのかを、以降のページで見ていきましょう。

 

まとめ

 

総供給曲線は分析対象となる期間によってカタチを変える。

 

長期→垂直

 

短期→右上がり

 

総供給量は労働・資本・天然資源・技術知識によって決定される。

 

総供給曲線のシフトは労働・資本・天然資源・技術知識の変化によって起きる。

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