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良い仮説の3要素 その3

<解説>
冒頭でも述べたとおり、仮説はただ構築するだけでは不十分です。

 

最初の段階から「良い仮説」のポイントを押さえつつ仮説を構築することで、その後の検証による効果も高まり、ビジネスの現場でも活用できるレベルにまで到達します。

 

仮説思考を崇拝し、闇雲に実践するだけでは、競合他社よりも秀でることは難しいのですね。

 

A社の社長が設定した仮説思考のチェック課題から、それぞれの仮説の問題点をあぶり出していきましょう。

 

テーマは「香港事業を成功させるためのポイントとなる施策は何か?」でしたね。

 

<Oさん>:
公用語である英語と広東語が、ビジネスを行ううえでの要となるかと思います。
英語についてはみなさん問題ないでしょうが、広東語については不十分なので、まずは社内で研修を行ってはいかがでしょうか。

 

→問題点:発想が陳腐でオリジナリティに欠ける。

 

Oさんの仮説は、諸外国で新規にビジネスを行うとした場合に、誰もが思いつくことです。

 

言葉の問題については、すでにK課長が研修体制を整えており、ぬかりはありません。

 

このように、一般常識にとらわれていては、ごくごく基本的な施策しか思いつかず、それでは数多く存在する競合他社との競争に勝ち抜いていけません。

 

発想が陳腐にならないよう、一般常識をなぞらないようにしたいですね。

 

 

<Sさん>:
香港には、自由な経済活動を促進させる独特の空気があると聞きます。
それは日本の空気感とはまた違ったものでしょう。
現地の人を積極的に採用することで、そうした雰囲気を社内に取り込み、交流を深めていくことが大事ではないでしょうか。

 

→問題点:課題の根幹である施策の立案から採用へとポイントがずれている。

 

Sさんの仮説は、「香港事業を成功させるためのポイントとなる施策は何か?」という課題の根幹からずれてしまっています。

 

採用に関しては、現地で活動していくなかで、人事部と相談しながら行うべきことです。

 

社長が求めているのは、今いるメンバーでどのような行動をすればより成果をあげられるのか、ということのはず。

 

課題に対する相手方の真意を読み取ることで、ポイントがずれないように注意しましょう。

 

 

<Tくん>:
香港は世界でも有数のビジネス圏ということもあって、その変化は、わずか数年でも目まぐるしいほどになるかと思います。
そのため、先行きをしっかりと予測し、ビッグデータをもとに行動することが何より大切なことではないでしょうか。

 

→問題点:抽象的な施策であり、また、活用できるビッグデータが手元にない。

 

Tくんの仮説は、時代の変化に対応するために、蓄積されたデータを有効活用する手法として適切な施策と言えそうですが、内容があまりに抽象的すぎます。

 

どんな事業においても、時代の流れに即応することは重要ですし、それは今回の海外事業においても同様でしょう。

 

求められているのは、より具体的な施策でありアイデアです。

 

また、ビッグデータの活用は重要ですが、新規事業を行うのにこれまでに蓄積した手元のデータが必ずしも有効かどうかは不確かです。

 

もともと、情報分析は基本であり、仮説としても弱いでしょう。

 

 

<K課長>:数字やデータに基づいたコンサルティングだけでなく、日本の伝統である「おもてなし」の心を事業活動に盛り込みたい。
そのためには、事務所の雰囲気から和を取り入れ、日本式のマナーを徹底し、コンサルティング以外の付加価値を高めるべき。

 

→コンサルティングと和の融合という斬新な発想、問題の根幹である施策の立案、具体的で実践可能という観点からも良い仮説と言えそうです。

 

あとは、他社の動向や実際の効果測定などの検証作業を行い、A社独自の差別化として、インパクトを与えられる行動計画に落としこんでいくことが求められます。

 

「おもてなし」について、メンバー全員がより理解できるためのマニュアルも必要となるでしょう。

 

K課長の意見のように、仮説から構築したアイデアからさらに発展できる可能性があることも、良い仮説の条件と言えるかもしれません。

 

 

このように、同じ仮説の構築でも、それぞれに違いがあることが分かります。

 

仮説思考はビジネスにおいて重要ですが、ただ闇雲に仮説思考を実践するだけでは、優れた意見が得られるとは限らないのです。

 

こうした状況を打破するためには、社内で仮説・検証に対する理解を深める必要があるでしょう。

 

もちろん、定例会議など、日々の業務の中でもレベルアップを図ることは可能です。

 

少しでも良い仮説を構築できるようにスキルアップを目指し、チームとしての決断においても、あるいは個人としての意思決定にも生かすことで、会社全体に好循環をもたらすことでしょう。

 

今回の場合は、海外における新規事業の展開というシーンでしたが、より日常的な業務の中でも、良い仮説に基づく思考法は、業務の質を高めるために有効と言えます。

 

たとえば、朝の掃除において。

 

仮説思考において、お客さまにもっとも高い満足度を与えるためには、どの部分を重点的に行うべきなのかを考えてみる。

 

すると、誰もが掃除を嫌がるトイレ掃除こそ、一番評価されるべき箇所であり、時間をかけて行うべきだと判明するかもしれません。

 

ただ掃除をすればいいという発想から、重点箇所を見いだし、さらに効率性も考えて時間の短縮も模索してみる。

 

こうした日常業務の中でも、仮説思考によって、より良い結果をもたらすことが可能なのです。

 

仕事のレベルや質、内容にとらわれず、仮説思考を取り入れましょう。

 

そのうえで、少しでも良い仮説を構築できるように「斬新な発想・オリジナリティ」「問題の根幹からずれていない」「より具体的で実践可能である」という3つの要素を意識することを忘れないようにしてください。

 

社員全員で意識できるようになれば、お互いに指摘しあうこともできますし、評価制度にも反映させることが可能となります。

 

 

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