フレームワーク思考 その2
【例題】
自分に合ったフレームワークをつくることができれば、画一的だった意思決定への道筋がカスタマイズされ、ビジョンや強みを反映する柔軟性をもたせることも可能になることでしょう。
それは、自分にとっても会社にとっても、強力な武器となります。
それでは、例題を通じてフレームワーク思考についての理解を深めていきましょう。
<例>
今年で創業60周年を迎える大手出版社Y社は、数ある出版社のなかでも、戦後の人々の思想を支えてきた実績があります。
一部の人からは、戦争によって大きなダメージを被った日本を再建に導いた、影の立役者とも賞賛されています。
そんなY社は今、転換期に直面しています。
インターネットやその関連ツールの台頭によって、ここ10数年で社会は大きく変わりました。
そこに住む人々を支えてきた知識の媒体である、書籍の売上が低迷しているのです。
Y社の社長であるSは、そういったゆるやかな社会の変化を肌で感じていました。
会社の繁栄という側面からも、そして社会に与えるインパクトの面からも、出版社の存在が今まさに問われているのだと強く認識しています。
肌感覚として、S社長がイメージする書籍売上低迷の理由は次のとおりです。
・情報収集の映像へのシフト
・「知識のアーカイブ」としてのインターネットの台頭
・若者の活字離れ
・電子書籍の存在
なかでも「若者の活字離れ」に関して言えば、新聞購読率の低下からみても明らかです。
統計によると、これまでは新聞の総発行数に対して1世帯あたりの発行部数が1を上回っていましたが、2008年からは下回り、さらに年々低下しています(一般社団法人日本新聞協会調べ)。
この深刻な事態に対処するべくS社長がとった施策は、現状をピンチとみるのではなく、チャンスとしてとらえるものでした。
具体的には、インターネットと書籍の融合を実現させるべく、新たなる事業を立ち上げることを決意したのです。
その新規事業を総括するために抜擢されたのが、まだ30代前半のA課長でした。
A課長はアメリカの大学を卒業後、大手コンサルティングファームに就職し、好成績をあげてきた人物です。
昨年からY社に転職し、戦略室に配属されていました。
A課長はもともと類まれな読書家で、年間の読書数はゆうに500冊を超えているとのこと。
自宅の本棚には新書から古典まで、歴代の蔵書がズラリと並んでいます。
ここ数年の書籍販売数の低迷に対して、個人的に憂慮しており、それがY社への転職のきっかけになりました。
S社長から直々に打診を受けたA課長は、その日からさっそく行動を開始しました。
まずは与えられた3人の部下とともに、「新時代書籍事業部(仮称)」を発足。
必要な機材を揃え、仕事ができる環境を整えます。
ただし、3人の部下はまだ20代の若手。
それぞれが営業部、事業部、販売部に所属してはいましたが、新規事業の立ち上げは初めての経験です。
そこでA課長は、彼ら3人に対し、今後の方針を示すことにしました。
具体的には次のとおりです。
1. 環境分析
2. 戦略立案
3. 目標の策定
4. 実践の指針策定
5. チェックと行動サイクルの構築
6. 現状分析(定点観測)と改善
<解説>
A課長はまず、S社長が肌感覚として考えていた4つの売上低迷の理由については、あくまでも参考程度に留めることに決めました。
それらは正しい部分もありますが、正式な調査に基づいたものではありませんし(新聞の発行部数と書籍の関連も不確かです)、何よりS社長の思考過程を3人の部下がそのまま踏襲するのはよろしくないと考えたためです。
もっとも、まだ経験の浅い3人に仕事をふるためには、より具体的な作業をふらなければなりません。
そこでA課長は彼らに既存の「フレームワーク」を授けることにしました。
次のページ 「フレームワーク思考 その3(3C分析、SWOT分析)」
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