分析対象の特徴をつかむための4つの視点 その2
【例題】
それでは、4つの視点について詳しく解説する前に、例題を通じて俯瞰的なアプローチの重要性について学んでいきましょう。
<例>
親子2代にわたって地域密着型の経営を行ってきたT社。
従業員は20名に満たない程度の中小企業ですが、不況にも負けず、堅実な事業展開を行ってきたと評判の会社です。
事業内容は板金を取り扱う製造業ですが、受注に困るどころか、現在は休む暇もないほどの忙しさです。
そんなT社のもとに、あるクレームが舞い込んできました。
そのクレーム先はT社とそれほど付き合いのある会社ではなく、どちらかと言えばここ数年利用してもらっているだけの会社です。
中規模程度なので、受注額も大したことはありません。
クレームの内容は以下のようなものでした。
・仕事の依頼から完成までの対応が鈍い
・長期的に依頼したいが、価格交渉ができないので困る
・大手企業からの受注を優先しているのではないかと不安になる
T社の社長Aの息子にあたる二代目のBは、クレームの内容に憤慨しました。
なぜなら、大した付き合いがあるわけでもないのに、要求することがあまりにも図々しいと感じたからです。
金額もそれほど多くはありませんので、突っぱねてしまおうかと周辺社員と話していました。
しかし、それを聞いた社長のAは、全従業員を集めて会議を行うことにしました。
その内容は、むしろ会議というよりは、会社の方針を明らかにして今後の対応を模索すべきというものでした。
つまり、A社長はこのクレームによって、次のことを全従業員とともに確認したのです。
・会社の方針:すべてのお客さまに対して全力で仕事をする
→取引先の大小や付き合いの長短にとらわれない。
・クレームへの評価:チャンスととらえる
→中小企業だけにクレームの絶対数は少ない。このチャンスをものにしたい。
・トラブルへの対応:全従業員の教育につながる
→感情ではなく、冷静な分析によって適切な対応する。後につなげる。
最終的には社長のAと二代目のBが謝罪に行くことを前提に、まずはクレームの原因を探るべく、営業部長のCが現状分析を行うことになりました。
通常業務のあとに時間をつくり、他の社員とともに連日の会議が続きます。
<解説>
C部長が行った現状分析と、そこから導き出せるクレームの原因は次のとおりです。
[現状]
二代目Bの成長にともなって、Aが掲げる経営理念が会社全体に浸透しなくなっている現状がある。
もっとも、Bが独自の工場で従業員を管理し、Aから独立して経営を行うことは会社の将来を考えると望ましいことだが、意思疎通を欠かさないようにしたい。
たとえばAが管理する工場とBが管理する工場では、従業員の満足度にも違いがある。
それは端的に、「残業時間が長いこと」や「Bが設定する納期目標が短い」などが原因として考えられる。
結果として、それが仕事の質にも影響している。
お客さまのために全力を尽くして、可能な限り最高の仕事をすることはT社のそもそもの経営方針である。
Bが考えているドライな経営も、いち要素としては今後取り入れるべきかもしれないが、あくまでも地域密着型という基本スタイルは保持するべき。
[クレームの原因と今後の対策]
・仕事の依頼から完成までの対応が鈍い
→作業現場の社員と営業パーソンとの意思疎通が不十分。新規で仕事を受注できている現状は評価すべきだが、今後はアフターケアにも力を入れる。
・長期的に依頼したいが、価格交渉ができないので困る
→価格交渉は基本的に行わないスタイルを貫いてきた。それは今後も変えない。しかし、その理由となっている「他の取引先との兼ね合い」「提供する商品の質の維持」「中小企業だけに、交渉の時間よりも作業の時間を優先したいこと」などを、相手方に明確に提示するようにする。社員全員が丁寧に説明できるよう、マニュアル化も検討する。
・大手企業からの受注を優先しているのではないかと不安になる
→以前に比べて、取引先と工場との距離が開くようになった。「地域密着」を標語として掲げるだけにせず、相手方との距離感を大切にする。また、納期に関わる連絡は密に行う。
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