因果関係の7つの錯覚パターン その9
<5.真の目的が共有されていない>
単純に考えてみても、末端社員と企業トップとのそれぞれの意識は、明らかに異なるものでしょう。
基本的に、日々の業務のなかで目の前の仕事に取り組むことだけが社員に求められていることですが、企業のトップは営業や経理、社員管理など、会社経営全般を含めた大役を担っているものです。
そうした点を鑑みると、個別の施策に対する「目的の共有」が十分になされない事例が多々あったともしても、それもまたある意味では仕方のないことと言えるかもしれません。
木を見るか、それとも森を見るか。
役割分担という機能的な組織体系が存在する以上、目的に対する認識不和の火種は常にあるのです。
たとえば、企業における朝の掃除について。
トップとしては、社内人員のコミュニケーション改善や環境整備による仕事のしやすさ改善、あるいは仕事をはじめる儀式としての意味合いを含む総合的な施策かもしれませんが、末端の社員にとっては、ただのルーチンワークにしか過ぎないとの理解がなされている場合もあります。
こうした目的に対する理解の不一致は、最終的に得られる結果を左右するばかりでなく、そのプロセスをも、本来期待しているものとは違う方向へと改変してしまう可能性を秘めています。
たかが掃除だと適当に行ってしまえば、社員同士のコミュニケーションが良好になることもなく、仕事への意欲もわかないのです。
<6.手段と目的の取り違え>
たとえば営業パーソンに与えられるインセンティブは、会社の利益を高めるために有効な施策とされています。
努力がそのまま反映される仕組みによって、社員の直接的な意欲向上につながるためですね。
プライドや競争力といった目に見えない要素に期待することなく、即効性のある効果が期待できます。
ただ、そこで手段と目的の取り違えが生じてしまえば、たちまち意味のないものとなってしまうでしょう。
そればかりか、会社の利益率を貶める可能性すらあるのです。
インセンティブを得るために他の社員の邪魔をしてしまったり、長期的にはマイナスとなる他社への誹謗中傷など、その可能性はいくつも考えられますね。
「この施策の目的はなんだろうか」「最終的に自分も企業もwin-winとなるためにはどうすれば良いだろうか」。
こうした思考が根底にない限り、手段と目的との取り違えは生じる可能性があります。
たとえ手間だとしても、この施策が何のためにあるのかという認識を啓蒙することを忘れてはならないのです。
<7.副作用の発生>
最後は、思わぬ副作用が発生してしまう可能性を度外視してしまうことにより、因果関係の把握を上手に活用できないパターンです。
とくにビジネスシーンにおいては、実際の行動とその行動により生じるリスクは表裏一体の関係にあり、副作用が発生する可能性は往々にしてあるのです。
ここでいう副作用とは「想定外のリスク」のことですね。
「社員の仕事に対するモチベーションを向上させるために、残業をなくすという目的で残業手当を撤廃した結果、社員の満足度がさらに低下してしまった」。
こうした事例は、施策によって生じるリスクを十分に考慮していない結果、マイナスに作用してしまう典型例と言えるでしょう。
残業をなくしたいのであれば、仕事のやり方を細かく分析し、改善点を見つけて実行していくほうが得られるものは多いはずです。
あらかじめ、施策に対するリスクを考慮し、本当に必要な対策は何かをしっかりと検討すること。
そうした慎重さがなければ、どのような改善策も期待する結果を残すことはできないでしょう。
「ビジネスである以上リスクはある。しかし、それでも得られるものの大きさのほうが勝る」そうした思考こそ、断固たる決断を可能とするのです。
つまり、副作用の発生による因果関係の錯覚とは、リスクへの読みが甘いために、問題への的確な対応策が実施あるいは継続できないことです。
そうならないためにも、因果関係は因果関係、リスクはリスクとして、個別に理解することが重要でしょう。
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