ゼロベース思考 その1
【ゼロベース思考とは】
ゼロベース思考とは、その名の通り「ゼロ(何もない状態)」を「ベース(基本)」に物事を考える思考法のことです。
私たちは意識的・無意識的にさまざまな思考のクセをもっています。一般常識、マニュアル、成功体験、過去の事例、教育、指導、私情……。
意思決定に影響を及ぼす要素はたくさんあります。
たとえ周囲の状況や持てる資源から客観的に判断した事象でも、思考のかたよりがまったくない状態で得られた解とは限りません。
例えて言えば、鏡を見るか、あるいは他人に指摘されるまで自分の服装の乱れは気づきにくいのと同じです。
だからこそ、いつでもゼロベースで考えられる柔軟性が必要です。
クリティカルシンキングを行うには「なぜそう考えたのか?(前提)」や「何がゴールにあるのか?(目的)」を考えなくてはなりません。しかし、それらは一度設定してその後は変更しないわけではありません。
めまぐるしく移り変わる周囲の状況や置かれている立場を考慮しつつ、いつでもゼロベースに戻って最適解を追求する。より良い意思決定はその先にこそあるのです。
【例題】
ゼロベース思考は経験・実績がある人ほど忘れがちです。具体例を交えながら見ていきましょう。
<例>
マンションデベロッパーA社に勤めるY課長は、前回担当した物件の成績を買われて新しいB物件のチームリーダーに抜擢されました。はじめての挑戦になります。
ただ、B物件は前評判が悪く、企画部や事業部からも販売が難航すると予想されていました。その理由はいくつかありますが、立地、設備、価格、競合他社、そして社会情勢が主な要因とされています。
B物件の販売開始前、エリアマネージャーであるZ部長に呼び出されたY課長。執行役員へのプレゼンでどのような戦略を発表するのかと問われました。
Y課長の意見を聞く前に、Z部長が示した案は次のとおりです。
・若手社員を使ったローラー作戦
・早朝から深夜までの徹底した飛び込み営業
・ベテラン社員から選抜して電話営業
しかしY課長はその提案を受け入れませんでした。独自の対案を用意してプレゼンを行い、役員たちの好評価を得ることに成功したのです。
<解説>
Y課長が考案した戦略は次のとおりです。
・戸建て物件に対する漏れのないポスティング
・工場を中心に周辺企業へのダイレクトハンド
・地方銀行へのトップセールス
Z部長とY課長の戦略には明確な違いがあります。それは過去の成功体験を前提にしているかどうか、あるいは前提のないゼロベース思考ができているかという違いです。
Z部長の戦略は、過去の成功体験に根ざしたものでした。とくに不動産がよく売れたバブル期にもっとも成果をあげた手法で、それがZ部長のスタイルでもあります。
一方、はじめてチームリーダーとして物件を担当するY課長にとっては、過去の事例を重視する理由がありません。
それよりも、苦戦することがあらかじめ予想されているのですから、競合他社が行っていないイメージ戦略を中心に据えました。
つまり、Y課長はZ部長の提案を盲信することなく、状況を冷静に分析して最適解を導き出したのです。
戸建て物件へのポスティングなどは通常考えにくいのですが(家を持っている人がマンションを買うとは考えにくいので)、歴史のある街だったために、家を持つ人の成長した息子や娘を対象にした戦略をY課長は立案しました。
工場や地銀へのアプローチも、地域住民に配慮した、できるだけイメージを低下させないための営業手法です。
Z部長のプッシュ型戦略とは対照的ですね。
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