因果関係の7つの錯覚パターン その2
【例題】
それでは、例題を通じて因果関係の錯覚についての理解を深めていきましょう。
登場する人物の考え方や発言から、どのような原因からどのような錯覚が起きてしまっているのかを意識しながら読み進めてみてください。
<例>
全国津々浦々に店舗を構えて、中古のゲームソフトを販売しているA社は、ここ数年の営業不振に悩んでいました。
かつては、20世紀後半のテレビゲームブームを受けて収益を伸ばしてきましたが、ここにきて急速に収益力が低下していたのです。
ゲーム業界そのものは、若干の縮小傾向にはあるものの、成長率は横ばいのままで、今後の対策によってはまだ伸びる可能性を残しています。
とくに、近年の技術革新はめざましく、最先端のテクノロジーをゲームにも取り込むことによって、新製品の売上に期待することができるでしょう。
多少価格が上がっても、市場の相場からそれほど乖離するわけではありませんので、受け入れられる可能性も高いのです。
しかし、それはあくまでも、ゲームを製作する側のこと。
中古商品を転売することで利益をあげてきたA社にとって、直接的にその恩恵を得られるかどうかは未知数です。
事態を重くみた営業部長のTは、全国各地の販売店を統括しているエリア統括マネージャーに聞きこみ調査を行いました。
その結果、次のような意見を得ることができました。
・新しいゲーム機が次々に登場しているので、古いゲーム機のソフトは売れないんですよ。
(関西エリア統括マネージャー)
・最近のゲームは難しくて、子どもたちのハートを掴むことができていないんです。
(近畿エリア統括マネージャー)
・消費税が上がってしまいましたので、節約志向が高まり、ゲームに使えるお金が減っているのではないでしょうか。
(四国エリア統括マネージャー)
・スタッフたちの接客態度に問題があり、クレームが発生しているせいではないでしょうか。一度、本社で研修をおこなってもらえませんか?
(北海道エリア統括マネージャー)
・定期的に大幅な値下げキャンペーンを行えば、客足は戻るかと思います。
(東北エリア統括マネージャー)
・現行の「売上高優秀店舗表彰制度」の内容を、もっと充実させてみてはいかがでしょうか。
(関東エリア統括マネージャー)
・新製品の買い取りを強化する目的で、「高価買取り」をキャッチコピーに掲げ、資金を投入すると良いかと思います。
(本社統括マネージャー)
T部長はさっそく、得られた調査結果をS社長に報告しました。
どの意見ももっともらしいものばかりですが、S社長としては、どうにもしっくりこないといった様子。
ただ、何が違和感を生じさせているのかは分からず、いくつかの意見を実践してみるという方針で話は進んでいきました。
そんなある日、懇意にしている経営コンサルタントのUさんが会社を訪問した時、T部長は何の気なしに聞き取り調査の結果を話しました。
すると、突然Uさんは真剣な顔になり、少しトーンを落とした口調でこう言ったのです。
「このままでは会社……潰れますよ」
T部長は、各地方のエリア統括マネージャーからの進言をもとに対策を講じればなんとかなるだろうと考えていただけに、Uさんの発言に驚愕しました。
「会社が潰れる……」 おそらく、S社長が感じていた違和感も、対策とその実際の効果との隔たりを予感していたからこそ生じていたのでしょう。
<解説>
では、なぜUさんは、会社が潰れると忠告するほどの危機的状況を察知したのでしょうか。
そこには、大きな企業にありがちな、社内の認識不和があったのです。
そしてその根底には「因果関係の錯覚」が潜んでいます。
各エリア統括マネージャーの意見を、それぞれ紐解いていきましょう。
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