複合的な論理展開 その2
<解説>
さすがは論理的な思考力に定評があるA課長。
その発言には、会議場の嫌な空気を一掃するだけの説得力と迫力がありました。
これまで黙っていた社長も小さくうなずいています。
お気づきの方もいるかと思いますが、A課長の思考は演繹法と帰納法を組み合わせたものになっています。
そのため、短い言葉でもより説得力のある説明ができているのですね。
会議というのは往々にして、無駄な時間の垂れ流しになってしまう傾向にありますが、議題と最終的な結論にさえ着目していれば、具体的な解決策を生みだすための建設的な議論の場となります。
A課長のような歯に衣着せぬ発言ができるビジネスパーソンはまだ少ないですが、論理的思考力を身につけることによって、自分の発言に自信を持てる人も増えていくことでしょう。
【演繹法と帰納法の関係性】
A課長の発言を分解してみると、次のような形式になっているのが分かります。
<帰納法>
・Z社が友好的な提携を行っていること(事象A)
・先に業務提携した建設機器販売会社X社が業績を伸ばしていること(事象B)
・Z社の代表取締役社長が建設業界にあかるいこと(事象C)
→Z社と業務提携した建設関連会社は業績があがる(一般論)
<演繹法>
Z社と業務提携した建設関連会社は業績があがる(一般論)→Y社がZ社と業務提携する(事象)→Y社の業績は回復するだろう(結論)
A課長が帰納法を用いて行った分析結果が一般論となり、その一般論を利用して自社の業務提携後を予測する結論を導き出しています。
これが、複合的な論理展開です。
【複合的な論理展開の注意点】
複合的な論理展開を利用することで思考の論理性は高まりますが、導き出された結論が必ずしも正しいとは限りません。
一般論を導き出す帰納法と、その一般論を利用して結論を出す演繹法は、相互に連動しているのです。
つまり、帰納法で導き出した一般論が間違えていたら、演繹法で出した結論も正しくない可能性があるということになります。
双方がコインの両面の関係にあることを忘れないようにすることが大切です。
ただ一方で、相互に連関しているからこそ、一般論と結論の正しさを両面からチェックすることができます。
たとえば先ほどの例で考えると、もし提携してもY社の業績が好転しなければ、業務提携だけでは業績は回復しないということが分かります。
そこで先に業務提携したX社が業績を伸ばしている理由を探ることになりますが、業務提携の他に営業力をテコ入れしたか、あるいは新しい販路を拡大したなどの戦略が判明することになるでしょう。
その後は一般論を次のように修正します。
「Z社と業務提携した建設関連会社は業績があがる」→「Z社と業務提携し、営業力と販売網を拡充した建設関連会社は業績があがる」
一般論を修正した後には、再度、演繹法によって結果を分析します。
このように、一般論と結論の再検討を繰り返す中で、予測の精度が上がっていき、将来的な見通しがつきやすくなるのです。
演繹法と帰納法を活用した論理的思考は、物事を検討する際の基礎になりますが、あくまでもビジネスが生物であることを忘れてはいけません。
論理的思考を土台に据えつつ、状況、環境、時勢の変化に対応し、結論を軌道修正できる手腕が求められます。
【まとめ】
・論理的思考の基本は「演繹法」と「帰納法」
・演繹法と帰納法はそれぞれ思考のベクトルが逆になっている
・帰納法で導き出した一般論は、演繹法で確認することができる
・演繹法の結論が間違っていたら、帰納法で導き出した一般論を疑ってみる
・演繹法と帰納法はコインの表裏。相互に確認しながら推測の精度を高めていくこと
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