分析対象の特徴をつかむための4つの視点 その3
【4つの視点】
C部長が行ったT社の現状分析をもとに、4つの視点についてさらに掘り下げていきましょう。
<視点1.各構成要素間の「バラつき」と「共通点」>
一つ目の視点である『各構成要素間の「バラつき」と「共通点」』とは、分析対象を俯瞰したときに見出される「全体及び個々の関係性についての特徴」です。
実際の分析においては、「対象物の全体像」と「その全体を構成する各要素」のそれぞれについて、関係性の観点から多角的にチェックしなければ使えるデータが得られません。
たとえばT社の事例では、全社的には好況であるものの、社長のAが管理している工場と二代目のBが管理している工場について、「経営スタイル」「従業員の満足度」「残業時間」「納期目標」「仕事の質」における違いがあることが分かりました。
これらは現場で働く従業員にとって「分析によって改めて気づかされる要素」です。
これが、より多くの工場を抱えている企業であったり、大々的にチェーン展開している企業の場合ではとくに、工場ごと・店舗ごとのバラつきや共通点から「なにが違いを生んだのか?」「従業員の満足度が高い工場に共通することはなにか?」「どうすれば好業績の店舗を増やせるか?」などが導き出せることになります。
もし単純に「B工場の新規獲得顧客数が伸びているので、その経営方針を全社で共有しよう!」としてしまえば、分析の切り口あるいは切り方も固定されてしまい、クレームの根本的な原因がいつまで経ってもはっきりしません。
全体把握と各構成要素のバラつき及び共通点の把握によって、より実効性のある建設的な分析が可能になるのです。
<視点2.最終的な結果に及ぼす影響力の度合い>
二つ目の視点は『最終的な結果に及ぼす影響力の度合い』です。
T社の事例においては、受けたクレーム(あるいはクレームのもととなっている諸問題)により会社が被るであろう損失に対して、対応策の実行によって得られる利益が最終的な結果となります。
得られる利益については、極力、具体的な数値であらわすことが望ましいとされています。
そうすることで、全体の売上に対するインパクトや変化率、割合などが直感的に理解しやすくなるためですね。
数値化による視覚的な定量化は説得力を生むのです。
もちろん、数値化のメリットは説得力の向上だけではありません。
時間や労働力など、限られた利用可能な資源のなかで、いかに効率的に業務を行うかが勝敗を分けるビジネスの世界では、それらを最小単位レベルで把握しつつ、より効果的に配分することが欠かせません。
しかし、今回のT社の事例では、クレームに対応することが全社的にどのような影響力をもつのかを数値化してはいません。
これはひとえに、T社が地域密着型の中小企業であることがその理由です。
社長のAは、自社の立ち位置に関して謙虚に分析し、客観的に理解していたのです。
地域に根ざした企業の強みは、何よりも「信用力」です。
二代目Bの判断では、当初、クレームの影響力を明確に数値化していなかったものの、それが卑小だからと突っぱねようとしていました。
しかし社長のAは、信用を失うことが目に見えない多大なインパクトをもつこと、つまり長期的には甚大な悪影響となることを肌で感じていたのです。
経営というのは、思いのほか人間的なものです。
影響力の数値化によって機械的に切り捨ててしまうクレームが、のちに社運を揺るがすような事態に発展することもあります。
大企業の事情と零細企業の事情が異なるのは当然のことなのです。
その点を十分加味しながら、影響力の大きさのみで判断するのではなく、自社・他社・市場を包括的に考慮するようにしましょう。
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