因果関係の把握 その5
<注意点3.単純な理解>
目の前の事象に対して、因果関係を深く検証することなく、単純に理解してしまうのは危険です。
短絡的な思考は、すべての物事を通りいっぺんの常識的な理解へと誘導してしまいますし、さらには正しいか正しくないかを確かめる判断過程を省略することにつながります。
正しい因果関係の把握は、自ら考えることによって可能となるのです。
たとえば、社内でどんどん出世する人材に対し、ライバルたちは「社内政治がうまいから」「上司の人心掌握に長けているから」「媚を売ってばかりいるから」などと分析し、冷たい視線を注いでいるかもしれません。
たしかに企業で出世するためには、人間関係的な要素を無視することはできません。
上司も社長もまた人間なのですから当然ですね。
しかし、人間関係の構築がうまいことが「原因」となり、どんどん出世するという「結果」につながっているという分析は、果たして正しい因果関係の把握と言えるのでしょうか。
思考としてはかなり短絡的ですよね。
少し考えてみれば、思考のほころびがあることが分かります。
もし出世頭の彼が、社会やお客さまに貢献するためにはコミュニケーション能力を向上させなければならないと考えており、そのためにスキルを磨いていたとします(原因1)。
それが結果的に社内の人間関係にも良い影響を与え(原因2)、上司からの評判も上がり(原因3)、他の社員よりも出世するという「結果」へと帰結しているとしたらどうでしょうか。
ライバルたちの批判は的を射ていないばかりでなく、「では自分はどうすれば彼に勝てるのか?」という建設的な発想に結びつかないことになります。
つまりは、ただのひがみや妬みでしかないのです。このように、単純な理解がクセになってしまうと、因果関係の把握が問題解決の材料とはなりませんので、肝に銘じておきましょう。
<注意点4.相関関係との誤解>
最後は「因果関係」と「相関関係」とを混同してしまったときに起こる、間違った因果関係の把握です。
ここで改めて言葉の定義を確認しておきましょう。
・因果関係
→「原因」と「結果」からなる論理的な関係性。
・相関関係
→2つの事象のうち、一方が変わるともう一方も変化する関係。
ただし、それぞれが「原因」と「結果」になっていないもの。
たとえば、あるテーマパークで売れている商品を調査した場合を考えてみましょう。
いわゆるマーケティング調査です。
その結果、商品Aの売り上げがとくに伸びている場合に、商品Bもまた売り上げが伸びていたことが判明したとします。
果たしてこれは、因果関係と言えるのでしょうか。
もしこの現象を、「商品Aがとくに売れているときは(原因)、商品Bもまたよく売れる(結果)」と判断してしまえば、今後の戦略としては、「商品Aの販促を起爆剤として、そのプロモーションを強化することにより、全体の売り上げを向上させよう」となってしまいます。
しかし、本当の原因として考えられるのは「“来店数の増加”=商品Aの売り上げアップ=商品Bの売り上げアップ」が妥当でしょう。
商品AとBのあいだにある隠れた因果関係が、今後判明するかもしれませんが、現段階ではあくまでも相関関係にすぎません。
つまり、商品Aの販促は、商品Bを含めた全体の売り上げを底上げしない可能性が高いのです。
それよりも、来店数の増加傾向を分析し、とくにお客さまが多いときに販促を強化した方が賢明でしょう。
比例の関係にあるだけで因果関係だと理解せずに、相関関係との違いを検討することが大切です。
【まとめ】
・現状では、因果関係の把握を正しく行い、利用できている人は少ない
・因果関係を正しく把握することで、問題の解決策が立案できる
・未来志向の戦略立案にも、因果関係の把握は活用できる
・「思い込み」や「言い訳」、「単純な理解」、「相関関係」が因果関係を見えにくくする
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