仮説と検証 その3
<解説>
ベテラン社員と若手社員のそれぞれの意見を、ベースとなる考え方の部分から共有するためには、思考過程を明確にしなければなりません。
そうすることで、どのような根拠をもとに結論を導き出したのかが理解でき、感情論ではなく、論理的な議論を展開することが可能となります。
また、そうした議論を経ることで、周囲への説得力も増すのです。
今回の場合で考えると、双方のあいだに世代間のギャップやキャリアの違い、あるいは経験をベースにしたものの見方の相違などが、そもそもの段階から存在しています。
考え方の違いが視点の違う意見を生み、議論を活発にするという狙いは良かったのですが、「どうやって結論を導き出すか」のプロセスを提示しなかったのは、S課長のミスと言えるでしょう。
あらためて、「仮説と検証」に基づいてそれぞれの意見を分解すると、次のようになります。
<ベテラン社員の意見>
設立5年目でまだまだ業績も不安定だ。
実際に、郊外から都心へと事務所の移転を行うかどうかも不透明だ。
すぐに契約を結ぶのではなく、付き合うべきかどうか慎重に見定めたい。
・仮説
→今は、今後の動向を慎重に見守るべき。
・検証
→時代の流れとともに、ベンチャー企業が次々に台頭していることは理解している。
若い人材の能力や国の支援を過小評価しているわけでもない。
ただ、新規の契約数を伸ばすことよりも、信頼できる取引先を増やすことが先決だ。
万が一、大きな損失を出してしまったら、営業Bの存続そものもが危ぶまれることになる。
(検証1)過去、設立年数が若く、業績が不安定な企業との取引において、信頼関係をベースに契約を進めていたところ、相手企業の一方的な契約破棄によって会社に大きな損失をもたらした事例があった。
今回の場合も、
(検証2)設立年数や業績、今後の動向の不安定さなどから、過去の失敗事例と似ていると判断できる。
(検証3)類似企業の倒産件数も、決して少なくはない。
<若手社員の意見>
運営年数も社員数も小規模だが、制作しているアプリには、多数のユーザーがファンとして支持している。
創業者のトップは投資銀行出身で資金繰りにも長けているし、すぐにでも契約を結ぶべきだ。
・仮説
→まずは小規模な契約から、さっそく契約を取り付けるべき。
・検証
→営業Bは、まだ発足したばかりの社内ベンチャーのような部署だ。
優良顧客を抱えたい気持ちは理解できなくもないが、リスクを承知でまずは契約数を伸ばす必要がある。
それが、会社に営業Bの功績を認めてもらうポイントとなるだろう。
ベンチャー企業に対して積極的にはたらきかけることは、社会的な評価を得るためのきっかけともなり得る。
(検証1)ベンチャー企業の成長率には目を見張るものがある。今回の場合、設立年数の短さや業績の不安定さを考慮しても、
(検証2)制作しているアプリのユーザー数や時代をとらえた戦略、
(検証3)トップの先見性は、他の一般企業と比較しても優れていると判断できる。
このように、ベテラン社員と若手社員の意見を仮説と検証に分けて考えてみることで、双方の「考え方のプロセス」が見えてきます。
ベテラン社員には過去の失敗事例に対する強い思いがあり、一方、若手社員には、リスクを承知で行動することの意義を強く感じているという思いがあったのです。
それぞれの考え方が理解できれば、むやみに自分の意見を押しつけるのではなく、歩み寄ることが可能となります。
今回の件を経て、取引先を決定する指針を明確にすることが決まりました。
「設立年数」「事業内容」「市場規模」「資本金」「トップの経歴」「社員の質と人数」などを、相手企業の評価項目とし、一定レベル以上であれば契約を推し進めることにしたのです。
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