仮説と検証 その6
<注意点2.事実に基づいているか?>
次に考えたいのが「事実に基づいているか?」という視点です。
事実とはつまり、実際にあった出来事ですね。
それも、誰が見ても明らかな出来事でなければなりません。
たとえば「今日は雨が降っている」という事象は事実となりますが、「今日はなんだか肌寒い」というのは確実な事実とは言えません。
気温に対する感じ方には個人差がありますし、そこには主観が影響していることが明らかだからですね。
事例においては、ベテラン社員の「当該企業が、郊外から都心へと事務所の移転を行うかどうかも不透明だ」という意見は、実際の行動を観察して述べているため、事実と判断していいでしょう。
相手先の企業に確認して、移転の手続きや物件の契約状況を確かめなければ、移転計画そのものが実施されるかどうかも判別できませんね。
誰しも、発言と行動との整合性がとれない場合には、相手を信用することはできません。
ビジネスが契約によって成り立っている側面を加味しても、長期的に取引を行う企業とは信頼関係を結んでおく必要があるのです。
それが結果として、双方のリスク管理にもつながりますし、何より気持ちの良い仕事を行うために不可欠の要素となります。
若手社員の「制作しているアプリのユーザー数や時代をとらえた戦略、トップの先見性は、他の一般企業と比較しても優れていると判断できる」という意見はどうでしょうか。
ユーザー数は、他の競合企業と比較して判断できますので、具体的なデータを加えれば事実かどうか判断できます。
ひとつの評価基準としても、意味のある指標ですね。
ただ、「時代をとらえた戦略」「トップの先見性」に関しては、抽象的な表現にとどまってしまい、具体的な事実としてとらえることはできません。
また、「他の一般企業との比較」に関しても、何をどう比較するのか、一般企業とはどういった会社を指すのかなどの指標が不十分です。
このように、もっともらしい意見にまどわされてしまうと、事実と個人的な見解とを見誤ってしまい、説得力のある説明ができません。
<注意点3.論理的な発想をしているか?>
3つ目の視点は「論理的な発想をしているか?」です。
論理的な発想とは、「A、B、Cという事象が確認できるから、結果的にDも正しくなる」や「A=BとB=Cが観察できる結果、A=Cも成り立つ」など、筋道がはっきりと立てられている考え方のことです。
これは、仮説を証明するための検証から生まれることもあります。
ベテラン社員の意見にある、「業績が不安定」「今後の動向も不透明」だから「契約を見送りたい」というのは、一見論理的な発想をしているかのように思えます。
しかし、業績が不安定なのはベンチャー企業なら当然ですし、動向の不透明さはさらなる調査によって改善されるかもしれません。
いずれにしても、論理としては詰めが甘いと言わざるをえないでしょう。
また、若手社員の「制作アプリのユーザー数が多い」「トップが資金繰りに長けている」だから「すぐにでも契約したい」という意見も、他のベンチャー企業の事例をあわせて提出するなどして、論理性を高める努力が必要ですね。
最終的には、悲観的な意見を元にした意見と楽観的な意見を元にした意見、その双方を加味して論理展開を構築することが大切です。
仮説検証を行う際には、「具体的なデータ(数字)を活用しているか?」「個人的な意見ではなく、事実に基づいているか?」「説得力のある、論理的な発想をしているか?」という3つの視点を思い出しましょう。
実際に、自分で仮説検証を行う場面だけでなく、相手が提示した仮説とその検証結果に対して反論する場合にも活用できます。
【まとめ】
・思考過程を共有することが大事
・「仮説と検証」によって個別の事例にも対応できるようになる
・仮説検証のプロセスは、?状況の観察 ?仮説の設定 ?仮説の検証 の3段階をくり返すこと
・仮説検証の際には、「データ」「事実」「論理」を用いること
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