ブランド戦略③(ブランドの構築と展開) その2
<例>
飲食店を運営しているA社は、市役所を中心とする官公庁、あるいはその関連施設が数多く立ち並ぶ地域に出店しており、安定的な経営を行っていました。
経営者であり店主でもあるNさんは、訪れる客からの評判もよく、味についても高評価です。
これから先は、新規出店や店舗そのものの規模拡大も模索しています。
ただ、新しいお店を出すにしても、あるいは店舗の規模を拡大するにしても、多額の資金が必要となります。
これまで手堅い経営を行ってきたAさんにとっては、なかなか大きな一歩を踏み出すだけの決断ができません。
むしろ、このまま今のお店を安定的に運営できれば、それでいいのかもと心のどこかでは思っていました。
そんな折、常連のひとりであるコンサルタントのSさんが、いつもより早い時間に来店しました。
なんでも、お昼ごろから商談があるらしく、昼食を早くすませてしまおうといつもより早めに訪れたそうです。
店内にはまだ他のお客もおらず、店主のNさんと談笑しながら本日のランチを食していました。
そこでSさんは、次のような発言をしたのです。
「しかしこのお店のドレッシングは美味しいね。格別だよ。市販のドレッシングもいろいろと試してみたけど、ここのお店のものより美味しいものには出会ったことがない。もし良かったら、ドレッシングだけでも売ってもらいたいものだよ。このお店では、そういうのやってないの?」
たしかに過去、ドレッシングやその他の調味料を販売することは考えていました。
しかし、開店直後だったこともあり、お店の知名度やブランド力も低く、その時は頓挫してしまったのです。
ただ、もしかして今だったら、Sさんの言うようにドレッシングを販売しても売れるかもしれません。
さらにSさんは続けます。
「ここのお店は、すでにこの辺りじゃかなりの有名店だよ。官公庁やその関係者でこのお店のことを知らない人はいない。もちろんドレッシングが美味いこともね。だったら、お店の名前を前面にだして、いろいろな商品を販売してみてはどうだろうか。それこそ、ブランドネーミングとしてお店の名前を活用してさ」
Sさんのアドバイスを受け、Nさんはさっそくお店の名前をつけたさまざまな商品を展開することにしました。
ドレッシングはもちろんのこと、各種調味料やレシピ本、調理関連のDVD、さらにはSさんとコラボレーションして、お店運営のノウハウを提供するコンサルティングもはじめました。
その結果、店舗運営以外の収益がどんどん大きくなっていったのです。
店舗のブランドを活用する前までは、リスクの高い他店舗化や店舗の増改築を模索していました。
しかし、Sさんのアドバイスによって、埋もれていた店舗そのもののブランドを上手に活用することができたのです。
また、お店のブランド名を冠した商品を販売することで、新しい顧客の開拓にもつながりました。
<解説>
自社そのものがブランドとして機能しているということに気がついていない経営者は少なくありません。
事業部ごと、あるいは製品ごとにブランドを構築するのも良いのですが、すでにある社名やロゴ、キャラクターをブランドとして展開するという方法もあるのです。
むしろその方が、一からブランドを構築する必要がない分、より低コストでブランド展開をすることが可能でしょう。
そのためには、すでに蓄積されている資源に目を向けることが大切です。
社名だけでなく、売れ行き好調の製品があれば、その製品名をそのままブランドとして拡張することも可能なのです。
ブランドの展開と育成を双方向で考えつつ、より効率的に活用することが大切でしょう。
そのとき、ブランドの階層を意識することによって、その後の展開や育成も容易になるのです。
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