カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM) その2
【例題】
それでは、事例をとおして、CRMについてより深く学んでいきましょう。
CRMを考える際に大切なことは、マスマーケティングとリレーションシップマスマーケティングとの違いを把握することです。
これまで潜在顧客の発掘に投資してきた経営資源を、積極的に優良顧客のほうへと振り分けるには、それぞれの性質を正しく理解しておかなければなりません。
<例>
デパートや百貨店に加え、小売店を全国でチェーン展開しているA社は、他店舗戦略によって顧客を集めパイを広げているのにも関わらず、収益が伸び悩んでいました。
最初のうちは、設備投資による多額の出費が経営を圧迫していただけだと判断されていましたが、減価償却を終えて数年が経過しても、業績は一向に上向きません。
こうした事態を憂慮した社長のOさんは、さっそく経営改革に乗り出すことにしました。
人員の大幅なムダが経費の垂れ流しにつながっていると予測し、社内で大胆なリストラクチャリングを敢行したのです。
その結果、人件費は大きく削減することになりましたが、非正規雇用者の団体などからクレームが入り、A社の立場は悪化してしまいました。
そうした経営改革が行われていた裏では、マーケティング部門による社内調査が粛々と行われていました。
これまで、経営の問題は人件費だと考えてきたO社長ですが、その調査結果を仔細に読み込んでみると、新しい事実が発覚したのです。
なんと、新規顧客を獲得しただけ、既存顧客が離れていることが明らかになったのです。
かつてA社は、バブル崩壊などを乗り越えて、地道に顧客を獲得しつつ、業績を伸ばしてきた経緯がありました。
老舗ではありますが、不況に強いという面もあり、社会的な認知度も高いのが特徴です。
そのおかげで、何十年にもわたって事業を継続してこれたのです。
それが今では、業績を維持するのが精一杯になってしまいました。
O社長のリストラが不発に終わり、既存顧客の流出が明らかになった今、やるべきことは明らかです。
まず、O社長は自身の認識を変えることからスタートしました。
つまり、これまでの成功体験はすべて捨てて、時代が大きく変わったことを認めることからはじめたのです。
リストラの失敗も素直に認め、次の1歩を踏み出すことにしました。
具体的には、新規顧客の獲得にまわしていた予算を、既存顧客をつなぎとめる戦略のほうに振り分けることにしたのです。
その前提として、膨大な顧客データからどういったタイプの顧客がA社の成長に貢献してくれているのかを分析し、一部の顧客を「ロイヤルカスタマー」として位置づけ、特別なサービスを提供することにしたのです。
幸いA社は、デパートや小売店事業だけでなく、保険や旅行、あるいは不動産関連の事業も行っていました。
こうした強みを生かして、ロイヤルカスタマーのライフタイムバリューを向上させるための施策を講じることにしたのです。
また、親密な関係を維持できるように、ロイヤルカスタマーとのコミュニケーションにも資源を投下しました。
その結果、A社の業績は少しずつ回復し、前年比を上回ることができました。
もっともポイントとなっているのは、トップであるO社長が時代の変化を受け入れたということにあるでしょう。
失敗を100%避けることはできませんが、そこから学ぶ姿勢をもつことによって、ピンチをチャンスに変えることができるのですね。
<解説>
A社は顧客データから、市場が成熟していることを読み取りました。
そして、これまでの成功体験にあぐらをかかずに、新規顧客獲得から既存顧客維持へと舵を切ることによって、業績を回復させたのです。
自社を取り巻く環境の変化をいち早く察知することが、事業を継続させるためには欠かせないという事例でした。
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