マーケティングリサーチ③(手法とプロセス) その2
【例題】
それでは、例題をとおして、マーケティング・リサーチのプロセスについてより深く学んでいきましょう。
マーケティング・リサーチは、方法論だけを身につけても実践することはできません。
マーケティングそのものがとらえどころのないものであるだけに、正しいプロセスに則って行わなければ、いつまで経っても本質をつかむことはできないでしょう。
<例>
都内で法律事務所を展開しているA社は、これから先の発展を目指して、特定の分野に絞った営業活動を行うことにしました。
それというのも、これまで雑多な依頼を受けてきた経緯があり、そのおかげで競合他社との熾烈な競争に巻き込まれてきたのです。
このままでは、大手の法律事務所との争いに飲み込まれてしまう懸念があります。
代表のMさんは、経営戦略の立案についてはかなりの腕前でしたが、マーケティングに関してはあまり実力を発揮できていませんでした。
自分一人で事業を行っているときはそれでもよかったのですが、これからは事務所全体をマネジメントしていかなければなりません。
その第一歩としての特定分野への特化です。
M代表は補佐役としてマーケティングに精通しているパートナーのKさんを参謀として据えました。
そうすることで、自分の至らない部分を補ってもらうことにしたのです。
Kさんは司法書士でありながら、マーケティングについても知見があり、これからのA社の発展のためには欠かせない人材であることは間違いありません。
そんなKさんからのアドバイスは、まず、マーケティング・リサーチをすることでした。
しかし、マーケティング・リサーチならこれまでも十分に行っています。
Mさんはその点を主張しましたが、結果としては反映されていないところをみると、あまり説得力がありませんでした。
たしかに、マーケティング・リサーチを行ってはいましたが、実態としてその効果はほとんどありません。
Kさんが主張したのは、これまでのマーケティング・リサーチを大きく変え、プロセスの段階から煮詰め、長期的に時間をかけて行うというものでした。
具体的なプロセスについては、マーケティング・リサーチの王道として知られている以下のとおりです。
?リサーチ目的の設定
?仮説の設定
?リサーチの設計と実施
?データ分析と仮説の検証
最初のうちは、Mさんも半信半疑でした。
なぜなら、リサーチの目的など、事務所を大きくさせる以外にないと思っていたからです。
また、仮説の構築やリサーチの設計などについても、時間がかかるだけで煩わしいと感じていました。
ただ、それはあくまでもMさんの感覚であって、マーケティングとしては不合格です。
そんなMさんを横目に、Kさんは粛々とマーケティング・リサーチを進めました。
特定の分野にターゲットを絞るというA社の目的を加味しつつ、これまでにカバーできていなかった分野について需要も含めた仮説を構築し、リサーチの方法論やデータ分析、最終的な仮説の検証などの流れも決めました。
その結果、スムーズにマーケティング・リサーチを行うことができました。
さらに、データの活用方法や利用についても指針が明確だったので、得られたデータがそのままターゲットとなる分野の特定につながったのです。
さらに、マーケティング・リサーチのプロセスが明確になり、社内でも共有することができるようになりました。
<解説>
マーケティング・リサーチは、行うことに意味があるのではなく、最終的なゴールに結びついてこそ価値があるものです。
むしろ、結果に結びつかないリサーチはただの資源の無駄でしかありません。
これまでA社が行ってきたリサーチは、リサーチのためのリサーチであり、意味がなかったのです。
しかし今回、正しいプロセスを踏襲することによって、意義のあるマーケティング・リサーチを実践することができました。
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