製品戦略②(新製品開発プロセス) その1
【新製品開発における4つのステップ】
製品というものがどのような性質をもち、どのように分類されるのかを理解したら、次は、具体的な新製品開発のプロセスについて学んでいきましょう。
新製品開発のプロセスにおいては、マーケティングに関する複数の知識をミックスさせて使用することになりますので、これまでに学習したことを思い出しつつ、読み進めてみてください。
新製品開発のプロセスは、おおむね次の4つのステップで構成されています。
第一段階:製品コンセプトの開発
第二段階:戦略仮説の検討
第三段階:製品化
第四段階:市場への参入
それぞれの段階において行うべき施策は異なりますが、全体をとおしてセグメンテーションやポジショニング、あるいはマーケティング・ミックスなどの知識が必要となります。
具体的な内容は後述するとして、まずは4つのステップがどのような流れとなっているのかを考えてみてください。
そうすることで全体のイメージが促されます。
たとえば、一番最初に決めるべきことに「製品コンセプトの開発」があります。
これは、コンセプトを決めることがいかに重要かということを表しています。
通常であれば、製品があってはじめて事業が行えると考えるものですが、それよりも先にコンセプトを決めるべき理由。
そのあたりに、マーケティングというものの本質が含まれています。
つまり、これまでのようにただ良いものを作り、ただ市場に投入するという事業活動においては、マーケティングが実行されていなかったのです。
具体的な「製品化」というステップの前に「製品コンセプトの開発」と「戦略仮説の検討」という二つのステップを設定し、新製品開発のプロセス全体としてまずこれらの施策を行うことが、マーケティングの実践そものもなのですね。
新製品を開発し、最終的に市場に投入するという事業活動は、ある意味では大きなリスクをともなう賭けのようなものです。
しかし、その賭けを行わなければ、よりイノベーティブな企業へと成長することはできません。
マーケティングを導入することは、新製品開発のリスクを減らし、少しでも成功確率を高めるために必要なことなのですね。
【例題】
それでは、例題をとおして、新製品開発プロセスへの理解を深めていきましょう。
新製品開発プロセスにおける4つのステップは、後述するとおり、さらに具体的な行動へと分類することができます。
ただし、それらを暗記して確実に行うことを目的にするのではなく、まずは全体の流れから「マーケティングに必要な要素」を理解するようにしてください。
実際に現場では、より臨機応変に行動することが求められます。
<例>
宝飾品の加工から販売までを手がけるA社は、中小企業ではありますが、紹介やリピート客、あるいはホームページからの集客で顧客数を維持しつつ、利益率の高い商品を販売して安定的に利益を確保してきました。
地元に根ざして営業活動を行ってきたこともあり、地域との強いつながりが事業基盤を強固なものとしています。
しかし、ここ数年で大手企業のショッピングモールが参入し、危機感を強めていました。
たしかに、A社がある地域はそこそこの人口を誇ることに加え、昼夜での人口増減がほとんどないため、魅力的な商圏だと判断されたのでしょう。
このままでは、既存の顧客だけでなく、市場における将来的なシェアも大きく奪われてしまいかねません。
そこでA社の社長であるHさんは、新製品を市場に導入することを決意しました。
既存の商品をただ販売しているだけでは、いずれ顧客を奪われてしまうことは明白です。
新製品を投入することによって、既存の顧客をつなぎとめておきつつ、新規顧客の獲得につなげようと画策したのです。
A社そのものとしても、変革の時期だと予感していました。
もっとも、総合的な規模においては、ショッピングモールに敵うはずはありません。
そのため、たくさんの商品をたくさんのお客さま向けに販売しようとすれば、体力の差で負けてしまうでしょう。
そう考えたH社長は、商品のラインナップを拡充するのではなく、ある一定のコンセプトにおいてシリーズ化された新製品の導入をイメージしました。
とくに重視したのが、自社がもっている技術力(シーズ)と顧客の需要(ニーズ)です。
それらを考慮した結果、誕生したのが「カスタマイズシリーズ」と「オーダーメイドシリーズ」の2種類でした。
自社がもつ独自の宝石の知識や加工技術、あるいは入手ルートを宝石に付属するサービスとして展開することにしたのです。
また、コンセプトが決定したあとは、マーケティング戦略についても入念に検討し、製品開発後のテストマーケティングや生産体制にも抜かりはありません。
中小企業だからこそ、闇雲に製品やサービスで勝負するのではなく、マーケティングをきちんと実践することが大切だということをH社長は知っていたのですね。
カスタマイズシリーズにおいては、出張修理はもちろんのこと、好きなときにカスタマイズして使える宝石として打ち出しました。
そうすることで、ひとつの宝石から何度もサービスを利用してもらえるだけでなく、顧客との接点も増え、既存の顧客を奪われることなく営業活動を継続できるようになりました。
もちろん、パーツ代金をくり返し請求できるという旨味もあります。
また、オーダーメイドシリーズにおいては、世界中にあるあらゆる宝石を独自ルートで入手することをお約束し、価格に糸目をつけないお客さまのニーズを満たすことによって、新しいファンの獲得につながりました。
こうした富裕層の横のつながりは案外狭く、紹介してくれるお客さまもまた富裕層というように、好循環も生まれたのです。
関連ページ
- グローバルマーケティングにおける企業の条件 その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略③(プッシュ戦略とプル戦略) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略③(プッシュ戦略とプル戦略) その1
- 価格戦略④(新製品の価格設定) その2
- 製品戦略⑤(プロダクトエクステンション) その2
- セグメンテーション その1
- セグメンテーション その2
- 標的市場の選定 その1
- 標的市場の選定 その2
- 標的市場の選定 その3
- ソリューションの価値と価格への転換 その1
- ソリューションの価値と価格への転換 その2
- ソリューションの価値と価格への転換 その3
- マーケティング戦略策定プロセス その1
- マーケティング戦略策定プロセス その2
- マーケティング戦略策定プロセス その3
- ターゲティング その1
- ターゲティング その2
- ターゲティング その3
- マーケティングとは その1
- マーケティングとは その2
- ブランド戦略①(ブランドとは) その1
- ブランド戦略①(ブランドとは) その2
- ブランド戦略①(ブランドとは) その3
- ブランド戦略②(ブランド・エクイティ) その1
- ブランド戦略②(ブランド・エクイティ) その2
- ブランド戦略②(ブランド・エクイティ) その3
- ブランド戦略③(ブランドの構築と展開) その1
- ブランド戦略③(ブランドの構築と展開) その2
- ブランド戦略③(ブランドの構築と展開) その3
- ブランド戦略④(ブランドの拡張と浸透) その1
- ブランド戦略④(ブランドの拡張と浸透) その2
- ブランド戦略④(ブランドの拡張と浸透) その3
- ブランド戦略⑤(コーポレート・ブランディング) その1
- ブランド戦略⑤(コーポレート・ブランディング) その2
- ブランド戦略⑤(コーポレート・ブランディング) その3
- ビジネスマーケティング(生産財マーケティング) その1
- ビジネスマーケティング(生産財マーケティング) その2
- ビジネスマーケティング(生産財マーケティング) その3
- ビジネスマーケティングと俯瞰思考 その1
- ビジネスマーケティングと俯瞰思考 その2
- ビジネスマーケティングと俯瞰思考 その3
- マーケティング課題の特定 その1
- マーケティング課題の特定 その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略①(コミュニケーションの役割) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略①(コミュニケーションの役割) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略②(コミュニケーション手法) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略②(コミュニケーション手法) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略②(コミュニケーション手法) その3
- コミュニケーション(プロモーション)戦略④(メディアの種類) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略④(メディアの種類) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑤(コミュニケーション戦略立案プロセス) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑤(コミュニケーション戦略立案プロセス) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑤(コミュニケーション戦略立案プロセス) その3
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑥(AIDMA・AISAS・AISCEAS理論) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑥(AIDMA・AISAS・AISCEAS理論) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑦(レピュテーション・マネジメント) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑦(レピュテーション・マネジメント) その2
- 競争戦略①(競争戦略とは) その1
- 競争戦略①(競争戦略とは) その2
- 競争戦略②(リーダー企業の戦略) その1
- 競争戦略②(リーダー企業の戦略) その2
- 競争戦略②(リーダー企業の戦略) その3
- 競争戦略③(後続企業の戦略) その1
- 競争戦略③(後続企業の戦略) その2
- 競争戦略③(後続企業の戦略) その3
- 企業におけるマーケティング その1
- 企業におけるマーケティング その2
- カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM) その1
- カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM) その2
- カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM) その3
- カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)の実施と導入ポイント その1
- カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)の実施と導入ポイント その2
- 流通戦略①(流通チャネルとは) その1
- 流通戦略①(流通チャネルとは) その2
- 流通戦略②(流通チャネルの種類) その1
- 流通戦略②(流通チャネルの種類) その2
- 流通戦略②(流通チャネルの種類) その3
- 流通戦略③(流通チャネル構築プロセス) その1
- 流通戦略③(流通チャネル構築プロセス) その2
- 流通戦略③(流通チャネル構築プロセス) その3
- 流通戦略④(チャネル変更とハイブリッド・チャネル) その1
- 流通戦略④(チャネル変更とハイブリッド・チャネル) その2
- 環境分析のフレームワーク その1
- 環境分析のフレームワーク その2
- 環境分析のフレームワーク その3
- 環境分析 その1
- 環境分析 その2
- グローバルマーケティング その1
- グローバルマーケティング その2
- グローバルマーケティング その3
- グローバルマーケティングにおける企業の条件 その1
- グローバルマーケティングのプロセスと注意点 その1
- グローバルマーケティングのプロセスと注意点 その2
- マーケティングミックス(4P分析) その1
- マーケティングミックス(4P分析) その2
- マーケティングリサーチ①(意義と役割) その1
- マーケティングリサーチ①(意義と役割) その2
- マーケティングリサーチ②(必要な情報) その1
- マーケティングリサーチ②(必要な情報) その2
- マーケティングリサーチ②(必要な情報) その3
- マーケティングリサーチ③(手法とプロセス) その1
- マーケティングリサーチ③(手法とプロセス) その2
- マーケティングリサーチ③(手法とプロセス) その3
- マーケティングリサーチ④(注意点) その1
- マーケティングリサーチ④(注意点) その2
- ポジショニング その1
- ポジショニング その2
- ポジショニング その3
- 価格戦略①(製造コストとカスタマー・バリュー) その1
- 価格戦略①(製造コストとカスタマー・バリュー) その2
- 価格戦略②(価格設定の影響要因) その1
- 価格戦略②(価格設定の影響要因) その2
- 価格戦略③(価格設定手法) その1
- 価格戦略③(価格設定手法) その2
- 価格戦略③(価格設定手法) その3
- 価格戦略④(新製品の価格設定) その1
- 価格戦略⑤(心理的価格設定、価格調整法、値下げ) その1
- 価格戦略⑤(心理的価格設定、価格調整法、値下げ) その2
- 製品戦略①(製品とは) その1
- 製品戦略①(製品とは) その2
- 製品戦略②(新製品開発プロセス) その1
- 製品戦略②(新製品開発プロセス) その2
- 製品戦略③(製品ライン設計、PPM、製品陳腐化政策) その1
- 製品戦略③(製品ライン設計、PPM、製品陳腐化政策) その2
- 製品戦略③(製品ライン設計、PPM、製品陳腐化政策) その3
- 製品戦略④(製品ライフサイクル) その1
- 製品戦略④(製品ライフサイクル) その2
- 製品戦略⑤(プロダクトエクステンション) その1