マーケティングリサーチ①(意義と役割) その2
<例>
全国の職人が手作りする良質な家具を販売しているA社は、長引くデフレによって徐々にシェアを落としていました。
最近では、外資系企業の安くてデザイン性の高い家具や、あるいは顧客が自分で組み立てるシステムにすることで経費を削減し、安く製品を提供しているホームセンターなどにその地位を脅かされている状態です。
A社はもともと、創業社長であるOさんのワンマン企業として成長してきました。
職人上がりであるO社長は、取引のある多くの職人から支持を得ており、そのおかげでA社をここまで大きくすることができたのです。
ただ、経験や勘に頼った意思決定をすることも多く、時代の変化に耐えられないのではという意見がステークホルダーから出ています。
そんな折、副社長であり、O社長の長女であるSさんが、経営体質の大幅な転換を提案しました。
具体的には、O社長がこれまで行ってきたようなワンマン経営をやめ、マーケティングを取り入れた全社員型の経営へとシフトするというものです。
また、新商品の開発や価格設定、商品ラインナップについても、しっかりとマーケティング・リサーチを行うよう提言しました。
最初はそんなS副社長の言葉に半信半疑だったO社長も、現状を打破するために少しずつマーケティングを取り入れてきました。
ときには、自身の経験や勘とは異なる経営判断をしなければならない場面もありましたが、渋々リサーチ結果に従いながら会社を運営していったのです。
経営大学院を出ているS副社長の手腕が大きく発揮された格好です。
その結果、まず最初に現れた変化が顧客の声です。
これまで、職人さんの手作り家具のみを取り扱うという高級路線だったのが、量産型の家具も取り入れたことによって、親しみやすくなったという意見が増えていきました。
インターネット上での販売にも力を入れたため、通販部門も大きく収益を伸ばしています。
また、景気の動向に判断されることなく、意思決定ができるようになったのも大きな変化です。
頑なに経営方針を貫くのではなく、市場の状況に応じて柔軟に対応できるようになったので、基盤がより強化されたのです。
経営理念というブレない柱と、マーケティング・リサーチによる軸足の転換。
この両方があってこそ、経営は安定するということをA社は自ら体現しました。
<解説>
創業者のワンマン経営によって企業が成長することもありますが、規模が大きくなるにつれて、いずれは限界が訪れます。
トップダウン型の経営から脱却するには、マーケティング・リサーチなどの手法を取り入れることによって、意思決定の方法そのものを変えなくてはなりません。
状況によって変化する姿勢が大切ですね。
【マーケティング・リサーチの役割】
それでは最後に、マーケティング・リサーチの役割について詳しく解説していきましょう。
すでにご説明したとおり、マーケティング・リサーチには「探究型リサーチ」と「検証型リサーチ」があります。
両者の違いを理解して、正しく使い分けられるようになれば、意思決定がよりスムーズに進むようになります。
<探究型リサーチ>
探究型リサーチとは、新たなマーケティング機会を探るために行う調査のことです。
「市場にはどのような需要があるのか」や、「これから求められる製品やサービス」などをリサーチすることで、売れるであろう製品やサービスに関する仮説を構築します。
その仮説をもとに企業は商品開発や価格設定を行います。
<検証型リサーチ>
一方で検証型リサーチとは、探究型リサーチから構築した仮説が正しいかどうかを検証するためのリサーチです。
ただ売れたか売れなかったかだけを調査するのではなく、その原因を探ることによって、次回の商品開発に生かしていきます。
定期的に調査を行うことで、トレンドの変化やブランドの認知度を調べることにもつながります。
【まとめ】
・マーケティングの出発点にある顧客の意向は、マーケティング・リサーチによって調査する
・マーケティング・リサーチは、大きく「探究型リサーチ」と「検証型リサーチ」に分類できる
・探究型リサーチとは、仮説を構築するために行うマーケティング・リサーチ
・検証型リサーチとは、構築した仮説を検証するために行うマーケティング・リサーチ
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