ターゲティング その2
【例題】
それでは、例題をとおして、ターゲティングについての理解を深めていきましょう。
どの市場、どのセグメントをターゲットとするかは、直感によるところも大きいかと思いますが、さまざまな判断材料を考慮しておくことで、説得力のある説明ができるようになります。
できる限り入念な調査・分析を行い、より有利に企業活動を行うこと。
そういった最終的な目標も視野に入れながら、読み進めてみてください。
<例>
さまざまな清涼飲料水を企画・販売している大手企業のA社。
その企画部に所属しているS部長は、新商品の開発に際して、頭を悩ませていました。
それというのもA社では、ここ数年のあいだ、既存の商品で売上を維持しているものの、新しいヒット商品を生み出せずにいたのです。
最近では、企画部に対する社内の風当たりも厳しくなってきました。
そこで、この現状をなんとか打開するべく、S部長は、次の新商品に並々ならぬ熱意を抱いています。
それこそ背水の陣という勢いです。
その熱意が周囲にも伝わったのか、企画部の主要社員たちは、会社の総力をかけて新商品を開発すると決意しました。
それこそ、使えるものは何でも使い、必ずヒット商品を生み出すのだという意気込みです。
なかでも、企画部がとくに力を入れることにしたのがマーケティングです。
これまでの商品開発は、会社の事情を考慮することが多く、そのために大胆な企画を打ち出せずにいました。
その結果、他社商品に先を越されたり、後手に回ることも多かったのです。
その点を十分に反省し、初心に返って、現場の声から商品づくりをはじめることにしました。
そこでまず行ったのが、現場を知り尽くしている営業パーソンへのヒアリングです。
それだけに留まらず、営業部を説得して、豊富な知見をもつ営業パーソン数人に、期間限定で開発チームに参加してもらうことにしました。
これまでの、社内の顔色ばかりうかがっていた企画部とは大違いです。
それだけに、S部長の強い思いが感じられます。
もちろん、販売先の店舗やベンダーにも、自ら何度も足を運びました。
また、自社製品がよく売れている商業施設や学校等にアポイントをとり、購入者へのインタビューも徹底的に行い、ゼロベースで市場調査を進めます。
断られることも多かったのですが、あきらめずに取り組み続けた結果、重大な事実を発見するに至ったのです。
その事実とは、A社の主力商品である「ビタミン炭酸飲料」が、女性よりも男性に支持されているということ。
これまで社内では、女性が好む栄養素として認識されていたビタミンが、実のところ男性に好まれていたのです。
これは、ある高等学校を訪れた時、学生によるグループインタビューから明らかになりました。
たしかに、A社が開発しているビタミン炭酸飲料は、若年層、とくに中学・高校生から圧倒的な支持を得ています。
しかしこれまでの認識では、男女ともにバランスよく購入されていると理解されていました。
データでも、大きな差異は見られません。
今回、現場での調査に力を入れたことによって、判明した新事実でした。
このことは、裏を返すと、中高校生向けの、とくに女子向けという市場が、十分に開拓されていないことを意味しています。
つまり、まったく新しい商品を開発するのではなく、まずは既存のビタミン炭酸飲料の女子版を作るべきではないかと考えました。
そういった観点から開発した、女子向け炭酸飲料は、現在ではA社の主力商品のひとつとなっています。
<解説>
商品の企画・開発に、マーケティングは欠かせません。
A社の企画部では、これまで、市場を改めて見直すという観点が抜け落ちていたのでした。
しかし、改めて徹底的に市場調査を行うことにより、中高生のとくに女子向けという市場が空いていることに気づきました。
そこからスタートした企画・開発によって、新しいヒット商品を生み出すことに成功したのです。
これは、市場セグメントへのターゲティングを、状況に応じて見直すべきということを意味しています。
たしかに、A社のビタミン炭酸飲料は中高生に支持されていましたが、必ずしも男女全員ではありませんでした。
そこで、女子向けというセグメントにターゲティングを行い、マーケティング・ミックスを導入することによって、主力商品が開発することができたのです。
A社の場合には、清涼飲料水市場全体にフォーカスしつつ、セグメントごとにマーケティング・ミックスを投下しているので、「差別化マーケティング」の手法となりますね。
これが中小企業の場合なら、中高生の女子向けの商品にすべての経営資源を投下する「集中化マーケティング」となるでしょう。
もっとも、市場規模から勘案しても、A社のようにけん引する既存商品がなければ、厳しいかもしれません。
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