コミュニケーション(プロモーション)戦略⑤(コミュニケーション戦略立案プロセス) その2
<例>
運送業や宅配業務をはじめとするさまざまなビジネスを展開しているA社は、社内に蓄積された独自のスキルやノウハウを生かして、コンサルティング事業部を立ち上げることにしました。
サービスや人を含めて、すでに社内にある資源を有効活用することにより、より低リスクで収益力の高いビジネスを展開するのがその狙いです。
具体的には、運送や宅配関連の事業を行っている企業に対し、全体戦略や自動車の管理、あるいは人材の採用から育成まで一貫してコンサルティングを行うというものです。
A社もかつてはそうだったのですが、事業をより効率的に展開するためには、行き当たりばったりのワンマン経営から脱却しなければなりません。
A社は創業から20年ということもあり、運送業や宅配業務に関する知見が豊富にります。
それこそ、社内で使われているマニュアルひとつとってみても、これから配送業を行おうと考えている企業にとっては十分に活用できる内容です。
もちろん、既存の配送業者にとっても参考になる部分はたくさんあることでしょう。
そもそもA社の社長であるSさんがなぜそうした事業に手を出そうと思ったのかと言うと、取引先や同業者と関わり合いを深めていくなかで、いかに多くの企業が社長を主導にしたいい加減な経営を行っているのかが判明したからです。
それこそ、長期的な戦略どころか、資金に関してもどんぶり勘定のところが少なくなかったのです。
その一方で、創業後数年を経ずに倒産してしまう企業があまりにも多い。
このままでは、大手と一部の業者しか生き残れない偏った業界になってしまう。
そうした状況に危惧を覚えてのコンサルティング事業部でした。
立ち上げ当初は、それこそ割にあわないほどの価格でサービスを展開しようと考えました。
すべては業界全体のためです。
コンサルティング事業部を立ち上げた後は、そうした思いをさまざまな企業に対して語りました。
その結果、賛同してくれる企業の経営者も徐々に増えていき、コンサルティングサービスの提供先が徐々に増えていきました。
それにともない、S社長だけでなく、周辺の社員でもコンサルティングを行えるように整備を進めます。
そして同時に、A社のコンサルティングビジネスをより広く、よりたくさん受注できるように、顧客とのコミュニケーション戦略にも力を入れることにしました。
これまでは社長がトップ営業をかけるとともに、ホームページで告知する程度でありましたが、盛況だったこともあり、本格的に事業を展開することにしたのです。
しかし、最初はなかなかうまくいきませんでした。
それというのも、これまでのA社の営業方法が、S社長主体のトップ営業を基本としていたからです。
果たして、どのようにコミュニケーション戦略を構築すれば良いのかが、社員の誰にも分からなかったのです。
S社長はこのままでは成長に限界があることを悟りました。
そこで、あるコンサルティングファームから、マーケティングのプロフェッショナルであるTさんを引き抜くことにしました。
給料の提示額はA社の歴史の中でもトップレベルではありましたが、これからさらにコンサルティング事業部を盛り上げていくために必要な出費だと考えての行動です。
ほどなくしてA社にマーケティング戦略部が発足しました。
最初の仕事は、コンサルティング事業部におけるコミュニケーション戦略の立案です。
Tさんが示したプロセスは次のとおりでした。
?コミュニケーション・ポリシーと目標、予算の設定
?コミュニケーション・ミックスとメディア・ミックスの決定
?具体的なコミュニケーション内容の決定
?コミュニケーションの実施と効果のモニタリング
S社長としては、コミュニケーション戦略を構築するためだけに、これだけのステップを踏まなければいけないことに最初は懐疑的でした。
しかし、実際にこの手順を踏襲することによって、全体戦略との整合性や個別具体的な行動指針、あるいは各スタッフがやるべきことなどが明確になったのです。
その後、A社のコンサルティング事業部は大きく飛躍し、今では社内でも1、2を争う営業利益の高さを誇っています。
もちろん、コミュニケーション戦略立案のための4ステップは、そのまま相手企業のアドバイスにも活用していることは言うまでもありません。
そして、ことごとく好評を得ていることも。
<解説>
顧客とどのようにコミュニケーションを行うかは、その企業が属している業界や企業そのものの性質によって異なります。
しかし、コミュニケーション戦略の立案に際しては、A社が行った4ステップが最初のひな形になることは間違いありません。
マーケティングとは、基本があってはじめて応用できるということを理解しておきましょう。
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