流通戦略①(流通チャネルとは) その2
<例>
お菓子や軽食を製造・販売している大手企業のA社は、競争が激化してきたチョコレート菓子部門を強化するために、新しい施策を模索していました。
とくにマーケティングの観点から長期的に売り上げを確保できるような戦略を構築しなければ、売り上げが下がる一方であるため、最終的にはチョコレート菓子部門からの撤退も考えています。
お菓子部門全体を統括するJ事業部長は、部署全体を覆っている「事なかれ主義」的な空気に危機感を覚え、今年中にチョコレート菓子部門を黒字化できないようであれば、大幅な組織改革も辞さない覚悟であることを社員たちに伝えました。
つまり、結果が出なければ自分も含めて多くの人がリストラの憂き目にあってしまうことになります。
そのような背水の陣のもと、J事業部長がまず行ったのは「マーケティング・戦略推進本部」の創設でした。
これまでのA社では、製造や企画、営業などの部署ごとに横で区切られていた組織体型だったのですが、そこにマーケティング・戦略本部を事業部長の直轄として置くことにより、商品ごとに縦割り組織へと変更しようというのがJ事業部長の狙いです。
創設されたマーケティング・戦略本部は、さっそく商品ごとの問題点を洗い出すことにしました。
旧来型の組織が抱えている「部署間の密なコミュニケーションがとれていない」という問題は想定の範囲内だったのですが、もう1点大きな問題がありました。
それは、顧客の声を営業が十分に吸収できておらず、さらに企画・開発にも生かされていないことです。
そうした状況では、競合他社と差別化できている商品が作れるはずもなく、さらには消費者が満足いくような製品も生まれません。
チョコレート菓子部門だけでなく、その他のお菓子に関しても同様の問題がありました。
つまりA社では、自社の強みや技術力、あるいは仮説や真似によって商品を生み出していただけだったのです。
それを知ったJ事業部長は、さっそく営業パーソンへの聞き込み行いました。
その過程で分かったのは、現場からの継続的なマーケティング調査ができていないこと。
もっと踏み込んで言えば、卸売業者や小売業者などの流通チャネルが、ただの「販売を媒介する者」としてしか捉えられていなかったのです。
本来であれば、流通チャネルの販売実績から得られたデータや消費者の声をしっかりと収集し、それを営業手法はもちろん、商品企画や開発にも生かさなければなりません。
J事業部長は定期的な研修をつうじて、営業パーソンを含むすべての社員に流通チャネルからの情報収集を強化するスキルを身につけるように促しました。
その結果、斬新な新商品が次々と生まれ、チョコレート菓子部門は再びA社の主力事業となったのです。
<解説>
流通チャネルの役割は、製造メーカーの製品を販売することだけではありません。
単なる媒介者として扱ってしまえば、そこから得られるデータや消費者の生の声をみすみす逃してしまうことになります。
優れた商品開発が顧客から始まるとすれば、そうした情報を定期的に収集し企業活動に反映させることは、事業を成長させるために欠かせないことと言えるでしょう。
【流通チャネルの機能】
それでは最後に、流通チャネルの機能について考えていきましょう。
製品を開発した企業がそれをターゲット顧客に届けるまでには、さまざまなギャップがあります。
そうしたギャップを埋めるための機能を担っているのが流通チャネルであると考えると、より理解が促されることでしょう。
流通チャネルの機能は大きく「主機能」と「販売支援機能」の2つに分けられます。
<主機能>
流通チャネルの主な機能としては、広告やPRを通じて販売促進を実現するための「プロモーション」や、製品に関するさまざまな「調査」、あるいは製品をより顧客の望みに近づけるための「マッチング」、さらには見込み客との「接触」や価格や条件面での「交渉」など多岐にわたります。
このことからも、流通チャネルが単なる販売の媒介者ではないことがお分かりいただけることでしょう。
<販売支援機能>
なかでも販売支援機能に特化しているものとして、輸送業務・在庫管理を行う「ロジスティクス」、売上回収や流通に必要な資金の調達・融資を行う「ファイナンス機能」、輸送中の事故などのリスクをとる「リスク分担」などの機能があります。
ただし、取り扱う製品によって流通チャネルの役割が異なることに注意しておきましょう。
たとえば台所用品などの日用品はプロモーションがメインとなりますし、工業機械の場合には交渉がメインとなります。
【まとめ】
・製品は、市場を経て、顧客が購入してはじめて売上となる
・流通チャネルとは、製品を顧客のもとへ届ける役割を担う流通業者全般のことを指す
・ビジネスにおける流通の意味には、大きく次の3つがある
?商的流通
?物的流通
?情報流通
・流通チャネルの機能には、調査・プロモーションなどの「主機能」と「販売支援機能」がある
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