マーケティングリサーチ④(注意点) その1
【マーケティング・リサーチの注意点】
ここまでのお話で、マーケティング・リサーチのプロセスや具体的な工程について、ご理解いただけましたでしょうか。
マーケティングに関するそもそもの特性を理解していれば、マーケティング・リサーチはそのために必要な調査という認識を持つことができますので、その意義や重要性についても無理なく理解できることでしょう。
マーケティング・リサーチの最終回である今回では、まとめとして、マーケティング・リサーチを実践する際の注意点についてご紹介していきます。
これから実際にマーケティング・リサーチを実践しようと考えている方はもちろん、すでに継続して行っている方でも、改めて方法や指針に間違いがないかチェックしてみてください。
マーケティング・リサーチにおける注意点は、おおむの次の3点に集約できます。
?目的を見失わないこと
?仮説にとらわれすぎないこと
?リサーチを疑う姿勢をもつこと
順番に、その内容についてご紹介していきましょう。
<注意点1.目的を見失わないこと>
マーケティング・リサーチには、必ず目的があります。
目的がないマーケティング・リサーチはただの調査であり、本来のマーケティング・リサーチとは異なるものです。
企業の活動は営利を目的としている以上、そこには明確な方向性や戦略、そしてひとつひとつの戦術(施策)があってしかるべきです。
マーケティング・リサーチは、そういった企業活動を支援するために、明確な目的を掲げなければなりません。
もし、目的を明確にしないままリサーチをしてしまったら、どうなるでしょうか。
得られたデータや情報の多くは、使用されないまま蓄積されるだけになってしまうでしょう。
なぜなら、そもそも目的がなく、リサーチの方向性も示されていないまま調査をしているだけなので、得られるものが限られてしまうからです。
このように、運や結果論だけでマーケティング・リサーチはできません。
また、目的を設定していても、当初の目的を見失ってマーケティング・リサーチを行ってしまえば、結果的に得られるものは限定的でしょう。
マーケティング・リサーチに投下できる時間や資金、労力を含めたリソースは限られているはずなので、ポイントを絞らなければ、焦点がボヤけたまま不要な情報ばかりが集まってしまいます。
目的を設定した後は、その目的を見失わないように努力しなければならないのです。
もっとも避けるべきなのは、リサーチのためのリサーチになってしまうことです。
マーケティング・リサーチはデータや情報を収集することが目的なのではなく、マーケティング施策を前に進めることが目的です。
意思決定に役立たない情報ばかりを収集してしまえば、それは経営上のロスでしかありません。
後々に役立ったというようなことは稀ですし、それはリサーチを専門とする企業が行うことでしょう。
<注意点2.仮説にとらわれすぎないこと>
マーケティング・リサーチの目的を見失わないことと同様に、重要なのが設定した仮説にとらわれすぎないことです。
目的の設定とともに仮説を構築することで、得られたデータや情報から何がわかるのか、どのような意思決定ができるのかということが明確になります。
そうしたリサーチ後の成果こそ、事業活動を前に進めるために必要です。
仮説の設定は、マーケティング・リサーチには欠かせないのです。
ただ、設定した仮説にとらわれすぎてしまうのも問題です。
「この製品は若い女性の支持を得られるので、絶対に成功するはずだ」というような仮説を立てていた場合、あまりに仮説を意識しすぎて、例えば「この製品が好きですか?」「好きな場合、どんな理由で好きですか?」というような、当たり障りのない質問を構築してしまう場合が少なくありません。
しかしそれでは、反対派の意見を聞くことはできませんね。
たしかに、マーケティング・リサーチで得られたデータを、プレゼンテーションで使用したり、企画書に落としこむことはよくあることです。
そうすることで、説得力が高まるからですね。
ただ、仮説を信じこんでしまった結果、偏ったデータを収集してしまい、最終的に他の類似品を圧倒することができず、結局市場から撤退せざるを得なくなってしまったという事例は枚挙にいとまがありません。
仮説はあくまでも仮説に過ぎません。
マーケティング・リサーチを進めるうえで必要なことではありますが、推測の域を出ないということを理解しておきましょう。
そして、賛成派だけでなく、反対派の意見も収集できるような質問を構築することができれば、よりマーケティング・リサーチの精度はあがるはずです。
それが本来の意味での、仮説を利用するということになります。
<注意点3.リサーチを疑う姿勢をもつこと>
3つ目は、リサーチそのものの結果を疑う姿勢をもつ、ということです。
仮説と照らしあわせて望ましい結果になったとしても、反対に大きく予想を覆すようなデータが得られたとしても、一喜一憂してはいけません。
そのリサーチ結果そのものが必ずしも正しいとは限りませんし、何より、リサーチの方法が100%正確なものかどうかもわからないのです。
どこかでミスがあれば、それだけでリサーチ結果は揺るぎます。
そもそも、リサーチの結果を絶対に正しいものと認識してしまえば、それだけでマーケティングの可能性は限定的になってしまいます。
本来であれば、リサーチでは得られないような顧客のニーズについても加味しつつ、商品開発を進めていくことが求められるはずです。
なぜなら、商品開発はマーケティング部門だけで行っているのではなく、開発部や販売部でも行っているからですね。
つまり、リサーチの結果は絶対ではないのです。
マーケティング戦略を進めるうえで参考にするべきことではありますが、マーケティング・リサーチの結果を盲信して企業活動を進めてしまえば、変化する時代の流れや顧客の需要についていくことはできないでしょう。
リサーチの結果は正解ではなく、調査の結果得られたひとつの方向性でしかないということを忘れないようにしたいですね。
その認識さえあれば、マーケティング・リサーチの結果は大きな武器になります。
大まかな市場の傾向を把握することはできますし、消費者の多くがどのような製品を求めているかということはリサーチ結果から明らかになるでしょう。
リサーチの結果を疑いつつ、有効活用するという発想が大切です。
少なくとも、データを恣意的に利用するというようなことは、厳に慎みたいですね。
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