価格戦略⑤(心理的価格設定、価格調整法、値下げ) その1
【消費者の心理を考慮した価格設定】
商品の価格を設定する際の判断基準にはたくさんの要素がありますが、最終的に商品を購入するのが消費者だということを考えると、消費者の心理的な反応を考慮しないわけにはいきません。
心理的な反応とは、「消費者が商品と価格とを見比べたときにどのような心理でそれを受け止めるのか」ということですね。
そのように消費者の心理的な反応をとらえた価格設定を「心理的価格設定」といいます。
心理的価格設定には大きく次の4つの項目があります。
?段階価格
?名声価格
?端数価格
?慣習価格
「段階価格」とは、高級品・中級品・普及品というように、価格に段階を設けて消費者に提供する手法です。
消費者は、その価格差を見比べつつ、予算の検討もしながら最終的に製品選択をします。
同一製品系列における品目数が多く、かつ価格の幅が広い製品に適しています。
たとえば、洋服や自動車などはランクによって価格差を設けていますね。
「名声価格」とは、その製品を購入することによって名声を得られるような場合に、そうした消費者の心理的傾向を意識した価格設定方法です。
たとえばブランド品や骨董品などは、消費者が十分に適正価格を判断できないことが多いですが、高価格の値つけがされることによって、品質に対する信頼や評価が担保されるというものですね。
「端数価格」とは、スーパーやデパートで売られているいわゆる「特価品」や「セール品」に多い価格設定方法です。
誰しも、1,000円の商品を980円としたり、20,000円の商品を19,800円と表示しているのを見かけたことがあると思います。
価格はそれほど変わらないのですが、大台に乗るか乗らないかで心理的な反応は異なります。
最後の「慣習価格」とは、昔から一定の慣習によって価格が固定されている商品のことをいいます。
自動販売機で販売されている缶飲料などは、消費税の影響で価格が変更することはありますが、基本的には横ばいで推移していますよね。
また、嗜好品であるタバコに関しても、税金の影響を除けば横並びです。
これらの製品は、価格を上げると急激に需要が減退する傾向があるのが特徴です。
【例題】
それでは、例題をとおして、消費者の心理を考慮した価格設定について理解を深めていきましょう。
商品とその価格とを照らしあわせた場合に、消費者がどのような反応をするのかという点が重要です。
消費者視点で考えてみたときに、自分がどのような感想をもつだろうかとイメージしながら読み進めてみてください。
<例>
中小企業向けのコンサルティングサービスを展開予定のA社は、3ヶ月後の設立に際して、サービスの内容について議論を重ねていました。
創業社長に就任する予定のFさんは、某大手コンサルティング会社で数多くの実績をあげてきた有名コンサルタントです。
その他の従業員はかつての部下や他社のコンサルタントなど、優秀な人ばかりがそろっています。
サービスの概要については中小企業のコンサルティングということでおおむね方向性は決まっていました。
他社との差別化についても、とくに設立5年以内の有望なベンチャー企業に的を絞ることによって、将来的な株価上昇や社外取締役となるなどの施策をしており、外からはもちろんのこと中からもサポートできるように体制を整える計画です。
もっとも、議論が紛糾しているのは提供するサービスの価格についてです。
日用品や消耗品のように目に見えるものではなく、コンサルティングという無形のものを提供するということもあり、価格の初期設定が難航していたのです。
F社長は強気の価格設定として、見積から提案までで10万円の費用を請求することを提案していましたが、他の社員は数万円かあるいは数千円でもいいと考えている者もおり、落としどころが見当たりません。
そんな折、知り合いのベンチャー企業経営者であるGさんが、新しい事務所に遊びに来ました。
F社長はこれを良い機会だととらえ、コンサルティングサービスの価格について意見を求めることにしたのです。
しかし、Gさんの意見はF社長の考えとは大きく異なっていました。
「数千円でも、数万円でも、あるいは10万円以上でも頼むときは頼む」と言うのです。
この言葉を聞いて、F社長は頭を抱えてしまいました。
「まさかGさんがふざけて意見を述べていたとは考えにくい。そうなると、初期の価格設定をすることに深い意味はないのだろうか」。
そのように考えこんでしまったのです。
他の社員からも良い提案が得られるわけではなく、価格設定に関してはとりあえず棚上げされてしまいました。
そんなある日、とある経営者向けセミナーに参加したF社長は、Gさんとばったり出くわしました。
そこで、A社が提供するコンサルティングサービスの初期の価格設定がいまだにできていないことを告げたのです。
するとGさんは、この間の言葉の真意を、F社長に次のように説明したのです。
「価格というのは消費者のとり方によってさまざまです。だからこそ、サービスの内容とともに複数の選択肢を用意することで、数千円でも数万円でも、あるいは10万円でも購入される可能性があるのです。大切なのは消費者が納得できるように、さらには最終的に購入にいたるように設定することなのです」。
Gさんの言葉を聞いたF社長は、コンサルティングサービスの価格を3つにすることにしました。
つまり、社員が対応する簡易な案件は数千円、高度な案件は数万円、F社長自らが対応する場合には10万円としたのです。
このように段階的に価格設定をすることで、顧客に対してより適切なサービスを提供でき、スムーズに事業をスタートさせることができました。
<解説>
価格設定は消費者の心理を加味して行わなければなりません。
サービス内容によって複数個の価格を用意する意味は、顧客に選択肢をもたせるという狙いもありますが、中間価格を積極的に選ばせるという戦略にもつながります。
つまり、安くもなく高くもない無難な価格を選びやすいということですね。
そのように、消費者の心理がどのように動くのかということから価格設定をしていきましょう。
関連ページ
- グローバルマーケティングにおける企業の条件 その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略③(プッシュ戦略とプル戦略) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略③(プッシュ戦略とプル戦略) その1
- 価格戦略④(新製品の価格設定) その2
- 製品戦略⑤(プロダクトエクステンション) その2
- セグメンテーション その1
- セグメンテーション その2
- 標的市場の選定 その1
- 標的市場の選定 その2
- 標的市場の選定 その3
- ソリューションの価値と価格への転換 その1
- ソリューションの価値と価格への転換 その2
- ソリューションの価値と価格への転換 その3
- マーケティング戦略策定プロセス その1
- マーケティング戦略策定プロセス その2
- マーケティング戦略策定プロセス その3
- ターゲティング その1
- ターゲティング その2
- ターゲティング その3
- マーケティングとは その1
- マーケティングとは その2
- ブランド戦略①(ブランドとは) その1
- ブランド戦略①(ブランドとは) その2
- ブランド戦略①(ブランドとは) その3
- ブランド戦略②(ブランド・エクイティ) その1
- ブランド戦略②(ブランド・エクイティ) その2
- ブランド戦略②(ブランド・エクイティ) その3
- ブランド戦略③(ブランドの構築と展開) その1
- ブランド戦略③(ブランドの構築と展開) その2
- ブランド戦略③(ブランドの構築と展開) その3
- ブランド戦略④(ブランドの拡張と浸透) その1
- ブランド戦略④(ブランドの拡張と浸透) その2
- ブランド戦略④(ブランドの拡張と浸透) その3
- ブランド戦略⑤(コーポレート・ブランディング) その1
- ブランド戦略⑤(コーポレート・ブランディング) その2
- ブランド戦略⑤(コーポレート・ブランディング) その3
- ビジネスマーケティング(生産財マーケティング) その1
- ビジネスマーケティング(生産財マーケティング) その2
- ビジネスマーケティング(生産財マーケティング) その3
- ビジネスマーケティングと俯瞰思考 その1
- ビジネスマーケティングと俯瞰思考 その2
- ビジネスマーケティングと俯瞰思考 その3
- マーケティング課題の特定 その1
- マーケティング課題の特定 その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略①(コミュニケーションの役割) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略①(コミュニケーションの役割) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略②(コミュニケーション手法) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略②(コミュニケーション手法) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略②(コミュニケーション手法) その3
- コミュニケーション(プロモーション)戦略④(メディアの種類) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略④(メディアの種類) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑤(コミュニケーション戦略立案プロセス) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑤(コミュニケーション戦略立案プロセス) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑤(コミュニケーション戦略立案プロセス) その3
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑥(AIDMA・AISAS・AISCEAS理論) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑥(AIDMA・AISAS・AISCEAS理論) その2
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑦(レピュテーション・マネジメント) その1
- コミュニケーション(プロモーション)戦略⑦(レピュテーション・マネジメント) その2
- 競争戦略①(競争戦略とは) その1
- 競争戦略①(競争戦略とは) その2
- 競争戦略②(リーダー企業の戦略) その1
- 競争戦略②(リーダー企業の戦略) その2
- 競争戦略②(リーダー企業の戦略) その3
- 競争戦略③(後続企業の戦略) その1
- 競争戦略③(後続企業の戦略) その2
- 競争戦略③(後続企業の戦略) その3
- 企業におけるマーケティング その1
- 企業におけるマーケティング その2
- カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM) その1
- カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM) その2
- カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM) その3
- カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)の実施と導入ポイント その1
- カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)の実施と導入ポイント その2
- 流通戦略①(流通チャネルとは) その1
- 流通戦略①(流通チャネルとは) その2
- 流通戦略②(流通チャネルの種類) その1
- 流通戦略②(流通チャネルの種類) その2
- 流通戦略②(流通チャネルの種類) その3
- 流通戦略③(流通チャネル構築プロセス) その1
- 流通戦略③(流通チャネル構築プロセス) その2
- 流通戦略③(流通チャネル構築プロセス) その3
- 流通戦略④(チャネル変更とハイブリッド・チャネル) その1
- 流通戦略④(チャネル変更とハイブリッド・チャネル) その2
- 環境分析のフレームワーク その1
- 環境分析のフレームワーク その2
- 環境分析のフレームワーク その3
- 環境分析 その1
- 環境分析 その2
- グローバルマーケティング その1
- グローバルマーケティング その2
- グローバルマーケティング その3
- グローバルマーケティングにおける企業の条件 その1
- グローバルマーケティングのプロセスと注意点 その1
- グローバルマーケティングのプロセスと注意点 その2
- マーケティングミックス(4P分析) その1
- マーケティングミックス(4P分析) その2
- マーケティングリサーチ①(意義と役割) その1
- マーケティングリサーチ①(意義と役割) その2
- マーケティングリサーチ②(必要な情報) その1
- マーケティングリサーチ②(必要な情報) その2
- マーケティングリサーチ②(必要な情報) その3
- マーケティングリサーチ③(手法とプロセス) その1
- マーケティングリサーチ③(手法とプロセス) その2
- マーケティングリサーチ③(手法とプロセス) その3
- マーケティングリサーチ④(注意点) その1
- マーケティングリサーチ④(注意点) その2
- ポジショニング その1
- ポジショニング その2
- ポジショニング その3
- 価格戦略①(製造コストとカスタマー・バリュー) その1
- 価格戦略①(製造コストとカスタマー・バリュー) その2
- 価格戦略②(価格設定の影響要因) その1
- 価格戦略②(価格設定の影響要因) その2
- 価格戦略③(価格設定手法) その1
- 価格戦略③(価格設定手法) その2
- 価格戦略③(価格設定手法) その3
- 価格戦略④(新製品の価格設定) その1
- 価格戦略⑤(心理的価格設定、価格調整法、値下げ) その1
- 価格戦略⑤(心理的価格設定、価格調整法、値下げ) その2
- 製品戦略①(製品とは) その1
- 製品戦略①(製品とは) その2
- 製品戦略②(新製品開発プロセス) その1
- 製品戦略②(新製品開発プロセス) その2
- 製品戦略③(製品ライン設計、PPM、製品陳腐化政策) その1
- 製品戦略③(製品ライン設計、PPM、製品陳腐化政策) その2
- 製品戦略③(製品ライン設計、PPM、製品陳腐化政策) その3
- 製品戦略④(製品ライフサイクル) その1
- 製品戦略④(製品ライフサイクル) その2
- 製品戦略⑤(プロダクトエクステンション) その1