コミュニケーション(プロモーション)戦略①(コミュニケーションの役割) その2
<例>
コーヒー豆の輸入・販売を手がけているA社は、事業拡大のため、これまでのように運営店舗において販売するだけでなく、量販店への陳列を目指していました。
販路を拡大することによって、一気に市場シェアを高めるのが狙いです。
そのために、これまで以上に営業に力を入れつつ、プロモーション活動に資金を投入することにしました。
しかし、量販店での陳列が実現できても、実際の市場シェアは思ったように伸びません。
当初の予定よりも大きく下回った業績見通しは、その結果を如実に表していました。
原因を突き止めるべく、A社のマーケティング部門ではマーケティング・ミックスの確認作業が行われました。
その結果、問題となっていたのはプロモーション活動を含めたコミュニケーション戦略だったのです。
そもそもA社が取り扱うコーヒー豆は、一部のコアなファンからは絶大な支持を得ていたものの、一般大衆向けではありません。
そのため、プロモーション活動の一環として行ったテレビやラジオのCM、あるいはインターネット広告が直接的な効果を生み出さなかったのです。
このままでは流通チャネルを拡大した意味がありません。
そこで考えたのが、コミュニケーション戦略の抜本的な見直しです。
広く一般大衆に周知させるのではなく、まずはファンと良好な関係性を構築し、その後口コミで拡散する仕組みをつくることにしたのです。
具体的には、A社オリジナルのコーヒー豆サイトやブログ、ソーシャルメディアへの定期的な投稿と交流を開始しました。
その結果、最初の数ヶ月は目に見える効果がなかったものの、徐々にA社の商品が周知されるようになりました。
しかも喜ばしいことに、取り上げられるほとんどの媒体で「誠実に良質なコーヒー豆づくりをしている企業」と、A社そのものの好評価にもつながっていたのです。
まさに嬉しい誤算でした。
また、消費者と直接コミュニケーションを行うことによって、嗜好の変化やトレンドなどもつかみやすくなりました。
新商品の開発に際しても、あるいは既存商品の改良においても、企業本位ではなく顧客の意見が主体となって開発できるようになったことは、継続的に支持される企業への大きな一歩となったことでしょう。
<解説>
くり返しになりますが、コミュニケーション戦略の基本は「誰が、いつ、どのように行うのか」ということです。
自社が取り扱う商品の性質をしっかりと把握し、顧客とどのようにコミュニケーションを行うべきかを考え続けることが、マーケティング・ミックス全体の相乗効果をも生むのですね。
事業拡大に際して、必ずしもマスメディアによる広告が正解とは限らないのです。
【購買意思決定プロセスと態度変容モデル】
それでは最後に、コミュニケーション戦略の立案に際して意識しておきたい「購買意思決定プロセス」と「態度変容モデル」について学んでいきましょう。
<購買意思決定プロセス>
コミュニケーション戦略を展開する場合には、顧客がどのような過程を経て購買に至るのかを理解することが大切です。
それによって、適切なアプローチ方法やその内容、タイミングを図ることができるようになります。
一般的な消費者が、製品を知ってから購入に至るまでの心理状態の推移は「購入意思決定プロセス」と呼ばれ、説明するモデルにはAIDAなどがあります。
このうち、注目(Attention)を得るためには「認知度向上」のための施策を、興味(Interest)を得るためには製品の「評価育成」、欲しいという欲求(Desire)を起こするためには「ニーズ喚起」、そして最終的な行動(Action)に結びつけるには「購入意欲喚起」をする必要があります。
<態度変容モデル>
次に、AIDAのような購買意思決定プロセスを実際に活用するために、消費者が今どの心理的ステップにいるのかを測定する手法として「態度変容モデル」を活用します。
具体的には「認知(Awareness)」「記憶(Memory)」「試用(Trial)」「本格的試用(Usage)」「ブランド固定(Loyalty)」からなるAMTULモデルが使われます。
それぞれ再認知率や再生知名率、あるいは使用経験率、主使用率、今後の購買意向率などを計測して調査していきますが、重要なのは顧客が今どのステップにいるのかを正しく把握し、適切なコミュニケーションを行うことです。
あくまでも目的はコミュニケーション戦略の構築にあることを念頭に置いておきましょう。
【まとめ】
・コミュニケーション戦略とは、プロモーション(販売促進)活動を含めた「情報伝達全般」を指す
・マーケティング・ミックス(4P)の一環としてコミュニケーション戦略をとらえることで、顧客に対してより最適なアプローチができる
・取り扱う製品や事業フェーズによって、最適なアプローチ手法は異なる
・顧客の心理状態を確認するためには「購買意思決定プロセス(AIDA)」や「態度変容モデル(AMTUL)」も理解しておく
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