流通戦略④(チャネル変更とハイブリッド・チャネル) その2
<例>
和菓子、とくに米菓を中心に製造開発しているお菓子メーカーのA社は、全国のスーパーやコンビニエンスストアに商品を流通させ、販売を拡大しています。
しかし、近年では各店舗が「プライベートブランド」の商品を拡充させていることもあり、収益を圧迫されているのが現状です。
そもそもプライベートブランドは、品質こそそれほど優れているとは言えないものの、安価で見栄えも悪くないために消費者から積極的に選ばれています。
また、スーパー側の利益も大きい商品であるため、陳列のされ方をはじめとする販促も積極的に行われています。
メーカーとしては、厳しい状況の中で商品力によって勝負するしかありません。
A社としては、お菓子そのものが単価の低い商品であるために、高いマージンを提示できず二の足を踏んでいました。
このままでは、大手企業の商品とプライベートブランドの2強となり兼ねません。
現状をなんとか打破したいと思い、社長のRさんは数年ぶりに小売店の現場に顔をだすことにしました。
各店舗ともそれなりの対応はしてくれますが、近年の状況を察してか、どこかよそよそしい感じがします。
たとえ店舗への影響を強化しても、お互いに商売である以上、A社ばかりを高待遇はしてくれないでしょう。
ただ、小売店を訪問するなかで、R社長はあることに気が付きました。
それはコンビニエンスストアにおける価格と客層です。
コンビニは基本的にはメーカー希望小売価格で販売されていますし、客層はスーパーと違って多種多様。
とくに男性客にアプローチしやすいと気がついたのです。
なかでも仕事帰りのサラリーマンは、価格をそれほど気にせずに手っ取り早くコンビニで商品を購入する傾向にあります。
お酒を飲む方にとっては、そのつまみとなるような米菓があれば積極的に選ばれる可能性もあるのです。
その点を考慮して、R社長は「コンビニ限定」の「お酒にあう米菓」の開発に踏み切る決意をしました。
その結果、コンビニ限定であるにも関わらず、A社にとって異例のヒット商品が生まれました。
「コンビニ限定」というチャネルの変更といった思い切った施策が、結果として功を奏した格好です。
<解説>
流通先を限定させると、販売網が縮小するため、一般的には顧客獲得の機会を失ってしまうと思われがちです。
しかし実際には、より最適なターゲットに訴求することができる場合があるのです。
とくに、お菓子のようなコモディティ化している商品の場合、販売先を限定することによって流通チャネルを変更すれば、無理に厳しい競争環境で争う必要がなくなります。
売れ筋の商品が生まれれば、流通チャネルへの影響力も強まるでしょう。
【ハイブリッド・チャネル】
最後に、時代や環境の変化による流通チャネルとの関わり方について考えていきましょう。
流通チャネルも企業であるために、時代や環境の変化によって栄枯盛衰があります。
かつては商品の購入先としてもっとも栄えていた商店街も、今やシャッター街となっている状況を鑑みるとそれは明らかでしょう。
だからこそ、製造メーカーとしては、流通チャネルを単一のものに頼るのではなく、複数確保しておくことが重要です。
また、チャネルや購入者層の多様化にともない、ターゲット層に合わせて流通チャネルを変えるという努力も必要になるでしょう。
たとえば、若年層にはスマートフォンサイトや動画投稿サイトからECサイトに誘導し、購入をうながすことがもっとも適したアプローチかと思えば、反対に主婦層には量販店での陳列販売が有効なこともあります。
自動車などの高価な製品は間にディーラーを挟んだ方が良いでしょうし、訪問販売の場合は営業マンが必要となります。
このように、一つあるいは複数のセグメントに対して一つの流通チャネルを利用するのでなく、複数の流通チャネルを確保しておくという考え方を「ハイブリッド・チャネル」と呼びます。
それぞれのチャネルの特性を生かし、適時適切に運用していくことが大切です。
【まとめ】
・状況に応じて、流通チャネルも変えなければならない
・環境の変化に応じて変えることを意識すべき要素
買い手の行動
買い手の求める情報
製品の技術的特徴
競合の流通戦略
利用可能なチャネル
法規制
・流通戦略に変化の必要性をもたらす要素
<「市場の拡大と成熟度」の観点から>
製品の細分化
市場の細分化
新しい市場分野の出現
購買行動の変化
買い手の求める情報の変化
大口顧客の出現
コスト要素の変化
新しいチャネルの出現
法規制による制約の変化
<「製品の進化」の観点から>
技術の成熟化
製品ラインの更新
・リスクテイクや販売強化のためには、セグメントごとに流通チャネルを用意する「ハイブリッド・チャネル」という考え方も重要となる
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