標的市場の選定 その2
<例>
高齢者向けのケアハウスを運営しているA社は、人員の確保に頭を悩ませていました。
それというのも、ここ数年で入所者が右肩上がりなのに対して、いくらスタッフを募集しても人が集まらず、十分なサービスが提供できていなかったのです。
このままでは、思わぬ事故やトラブルが発生したときに、適切な対応ができない可能性があります。
もし、重大事故を起こしてしまえば、それは会社にとって大きな損害となるでしょう。
そこで代表のS社長は、自社のマーケティング環境について、あらためて調査してみることにしました。
そうすれば、今後の方策がつかめるかもしれないと思ったのです。
とくに、これまで十分に行えなかった「SWOT分析」に力を入れ、自社の強みと弱み、市場の機会と脅威を割り出すことにしました。
その結果、自社の理念であり、強みでもある「きめ細かなケア」が、実施できていないことが明らかになりました。
同じ市場には、大規模な入所者を誇る大手企業がいたために、その企業に打ち勝つことを目標としてしまっていたのです。
つまり、標的とする市場を間違っていたのでした。
また、市場には「高価格でも高品質なサービスを求めている層」が一定数おり、A社がある地域は高級住宅街でした。
その事実を把握したS社長は、さっそく社内改革に乗り出します。
スタッフの募集と入所者の募集をストップし、少数精鋭ながらも高品質のサービスを提供できる体制を整えたのです。
これまでは無制限に入所者を受け入れていたため、相対的にスタッフの数が足りなくなっていたのです。
もちろん、収益を確保するために価格は値上げせざるを得ませんでしたが、ほとんどの入所者が理解してくれ、入所者数に大きな増減がないまま、経営を建て直すことに成功したのです。
<解説>
今回の事例では、ことの発端はA社の人員不足でしたが、その問題を解決するためにマーケティン環境をとらえなおした結果、経営の改善につながりました。
SWOT分析によって自社と市場を分析し、あらためて環境を把握しなおすことで、標的とする市場を間違えていたことに気がついたのですね。
無闇に入所者を増やしても、人員が足らず、結果として大手に太刀打ちできないのです。
たしかに、経営の改善は、そう簡単にできることではありません。
ときには、これまでの方針を大きく転換しなければならないこともあるでしょう。
しかし、そうしたときに、自社の理念や当初の目標に立ち返り、愚直にマーケティングを実践できるトップがいれば、V字回復も夢ではないのです。
もちろん、現場の人間にマーケティングを浸透させることも忘れてはなりませんね。
【標的市場の選定に必要な3つのステップ】
冒頭でも申し上げましたとおり、標的市場の選定は「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」という3つのステップを経て行われます(正確には、ポジショニングは次の工程に含まれますが、セットで覚えておくと理解が促されます)。
それぞれのより詳細な内容は次回以降に取り上げるとし、今回はその概要だけ簡単にご説明します。
まずは、個々のステップとその全体像をイメージできるようにしましょう。
<セグメンテーション>
セグメンテーションとは、市場を一定の指標にそって細分化することです。
たとえば、年齢、性別、職業、年収、家族構成などがその指標の一例となります。
セグメンテーションによって、次のステップであるターゲティングのもととなる母集団を割り出し、マーケティング戦略をより効率的に進めることができるようになるのですね。
具体的には、調査・分析を経て、個々の母集団のプロフィールを描いていきます。
そもそも、市場にはさまざまな属性の人がいます。
地域によっては、その市場のなかではっきりとした共通項がある場合もありますが、必ずしも理路整然と並んでいるわけではありません。
また、競合他社の存在を考えると、市場全体をそのままターゲットとするのは非効率でしょう。
だからこそ、市場全体に的を絞るのではなく、セグメンテーションによって細分化する必要があるのですね。
ただ、その企業が取り扱う商品やサービスに関する項目においてセグメンテーションをしなければ意味がありません。
もちろん、必ずしも最初からどのように細分化すべきかは明確ではありませんが、「女性が好むだろう」「若年者には向かない」など、あらかじめ仮説をもってセグメンテーションした方が良いことは言うまでもありません。
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