マーケティングリサーチ②(必要な情報) その2
<例>
さまざまな業界に所属する専門家と、企業あるいは個人のニーズをマッチングさせるサービスを提供しているA社は、これまでの顧問サービスとは一線を画し、より利用しやすい高度な情報を蓄積するプラットフォームを目指しています。
社長のHさんは、自身のキャリアを生かして、新しい働き方を創造できればと考えています。
そんなH社長は、自身が女性であり、結婚もしているということで、これまで勤務してきた大企業では肩身の狭い思いをしていました。
能力的には申し分なくても、妊娠の可能性や産休の懸念があるということで、重要なプロジェクトに携わることができなかったのです。
そうした経験から、自分と似たような人がたくさんいるのではと思い、起業を決意したのです。
また、H社長のようなパターンでなくても、社会にはさまざまなスキルを持つ専門家が表舞台に出てこない状況があります。
企業に勤めていることで、副業は禁止されている場合もあり、そうした人が持つ知見をもっと世の中のために放出するべきだと考え、プラットフォームとしての場を提供しようと思ったのです。
最初はなかなかうまくいかなかったのですが、徐々に賛同者が表れ、企業や個人からの依頼も増えるようになりました。
専門家の数と比例するかのように利用者が増えることで、順調にマージンを稼げるようになってきたのです。
まだ新しい会社ではありますが、これからの日本を考えるうえではかなりの成長性が見込まれています。
ただ、問題なのは、データベースが思うように蓄積されていないことでした。
どのようなニーズがあるのかを調査し、その結果を公表して専門家を募集しているのですが、くり返しの調査も結果として売上に貢献できているか不透明だったのです。
人気の専門家は相変わらず人気ですし、やはり新規の専門家はなかなか選ばれることがありません。
多額の資金を投入して調査を行っても、このままでは資金の無駄遣いになってしまいます。
リサーチ会社に支払っている金額は徐々に経営を圧迫しそうな勢いでした。
H社長はなんとかしなければと思い、自社のサービスを使って「マーケティング・リサーチ」の専門家に相談することにしました。
その結果、得られた知見は次のとおりです。
・1次データの収集ばかりでなく、2次データをもっと活用すること
・定量データだけでなく、定性データの収集に力を入れること
ここで言う1次データとは、特定の目的のために収集されるデータのことで、A社の場合でいうと、自社サービスを利用してもらうために行うニーズの把握です。
確かにこの1次データは短期的には役立ちますが、その時その時のトレンドを追うことになる場合も多く、継続しなければ効果が得られないというマイナス面もありました。
対して2次データとは、別の目的で収集されたデータや、すでに蓄積されている社内外の情報のことを指します。
外部のものでいえば、政府が発表している人口統計やGDP、あるいは消費動向などさまざまです。
内部のものでは、A社がこれまでにマッチングしてきたサービスの内容や専門家の種類、顧客の属性などですね。
2次データを活用すれば、リサーチ会社に依頼することなく、市場の動向や顧客のニーズがある程度は把握できるかもしれません。
また、A社がどのような顧客に好まれているかや、これからどのような方向性をもってサービスを展開すればいいのかが見えてきそうです。
そうなれば、A社独自の強みも構築できます。
もうひとつのアドバイスである「定量データ」と「定性データ」に関しては、定量データが数値で表せるデータであり、定性データが数値化できないデータのことです。
これまでA社では、とにかく統計やグラフ作成に使える定量データばかりを収集してきたのですが、顧客に対する密なヒアリングやグループインタビューは行ってきませんでした。
そのため、大衆の意向を把握することはできても、すでに利用している人やこれから利用しようと考えている人の細やかな意見をサービスに反映できていなかったのです。
登録だけして利用していないユーザーなどに対しては、そうした定性データを収集することで、利用を促進させることが可能になるかかもしれません。
H社長はさっそく、アドバイス通りにマーケティング・リサーチのやり方を改善してみました。
その結果、ユーザーからだけでなく、活躍している専門家からもポジティブな反応が得られるようになったのです。
すでに多くの案件をこなしているヘビーユーザーに関しても、不満や改善点は抱えていたことがわかりました。
リサーチの結果をふまえて、A社はサービスの改善に取り組みました。
登録から利用までの簡素化やサイトのユーザーインターフェースの向上、スマートフォン対応、アプリの提供、その他ユーザビリティを改善するためにありとあらゆる改良を行いました。
そうした一連の活動の中で、徐々にユーザーも増えていったのです。
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