ビジネスマーケティングと俯瞰思考 その2
【例題】
それでは、例題をとおして、ビジネスマーケティングに必要な俯瞰思考について掘り下げていきましょう。
マーケティングの基礎部分に関する理解があってこそのビジネスマーケティングです。
ビジネスマーケティング特有の部分にばかり注目するのではなく、マーケティングの本質に目を向けながら、ビジネスマーケティングの相違点に着目してみてください。
<例>
もともと不動産販売会社で営業パーソンをしていたAさんは、このほど独立することを決意しました。
資金がたまったこと、そして人材の確保の目処がたったこと、さらには時代背景として不動産の中古販売が伸びているということを加味し、意を決しての新規開業となります。
顧客に関しても、前職の企業に許可をもらい、一部は引き継いでいます。
ただ、一点だけ懸念していることがありました。
それは、安定顧客となる可能性が高い「企業向け」の物件販売です。
中古物件と言っても、そのすべてを一般消費者に販売するわけではありません。
一部に関しては、そのまま流通業者やブローカーに流すということも考えられます。
企業の社宅などはまさにその一例です。
そうした場合に、社内にはまだBtoBの経験が豊富なスタッフがいません。
Aさんをはじめとして、個人営業の経験は豊富でも、企業向けの営業実績が乏しい。
その点を、開業前の懸念点として抱えていました。
いずれにしてもやるべきことはそう変わらないとたかをくくり、勢いで開業してしまったのです。
幸い、過去の人脈を上手に活用することで、開業当初から優良な物件を多数取り扱えました。
お客さまからの評判も良く、少数精鋭として順風満帆なスタートを切ることができたのです。
右肩上がりの成長を目指して、これから先の戦略立案にも抜かりがありません。
Aさんは、長期的な見通しを立てながら運営を進めていました。
しかし、ほどなくして、企業からの問い合わせが増えるようになりました。
消費者向けの一般的なマーケティングだけでなく、ビジネス向けのマーケティングをしていないにも関わらず、コンスタントに問い合わせがくるのです。
これを大きな商機ととらえ、Aさんはスタッフのうちの1人を法人担当専属にしました。
また、これだけの需要があるのであれば、マーケティングに関してもビジネス向けにシフトするほうが得策ではないかと気付きはじめたのです。
将来的には、一般顧客向け部門と法人顧客部門を分社化し、グループ企業として収益力を高めることも可能です。
さっそく、ビジネスマーケティングに強い外部の専門家にアドバイスを請いました。
そこで教えられたのは、ターゲットとなる企業、あるいは業界の全体像を把握するということ。
そうすることで、どこにどのようにアプローチすればいいのかが見えてくるということでした。
アドバイスをくれた専門家は、しきりに「俯瞰思考」という言葉を多用し、一般向けのマーケティングとの違いを力説していました。
Aさんはその内容をマニュアル化し、法人担当専属のスタッフに熟知させ、いずれは分社化も検討していることを話しました。
もちろん、そのスタッフがいずれは社長になる可能性もあります。
そこで、アルバイトやパートの雇用は全面的に一任し、ビジネスマーケティングを踏襲したマニュアルを駆使して事業を盛り上げるように命じました。
その結果、ビジネス部門の売上はどんどん伸び、一般消費者向け部門と肩を並べるまで成長しました。
マニュアルも随時改定され、そこにはターゲット企業へのアプローチ手法や、行うべき施策、そして企業や業界を俯瞰した簡易マップも掲載されています。
それを見れば、誰でも適切な営業活動ができるようになっているのです。
思った以上の成長を遂げた法人部門。
Aさんも驚きと喜びでいっぱいです。
このままいけば、早ければ来季、遅くとも3年後には分社化も検討できるでしょう。
早い段階からビジネスマーケティングに着目し、その機会を上手にとらえたAさんの戦略およびマーケティング施策が有効に機能した結果です。
<解説>
マーケティングの本質を理解していれば、実践をとおしてビジネスマーケティングへと応用することも可能です。
もちろん、専門家やプロフェッショナルのアドバイスも加味しつつ、自分たちのマニュアルを構築していけば、現場思考のビジネスマーケティングがより具体化されます。
その内容を日々高めていけば、誰でも実践できる普遍的な営業活動が導き出されるのです。
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