マーケティングリサーチ④(注意点) その2
【例題】
それでは、マーケティング・リサーチの注意点について、より深く学んでいきましょう。
マーケティング・リサーチは、実践するなかでも学びが多いのが特徴です。
データを扱う専門家でない以上、どのように調査を進め、また得られた情報をどのように活用すればいいのかなどと迷うことも多いかと思います。
そうした状況でも、逃げることなく考え続けることで、マーケティングに役立つリサーチができるようになるのです。
<例>
さまざまな企業の営業支援や代行を行っているA社は、営業活動を支援するシステムを開発するために、マーケティング・リサーチを行うことにしました。
ここ数年はインターネットを活用した営業活動がメインになっており、その傾向はこれからも続いていくだろうということを見越して、取引先企業を中心にアンケート調査を敢行します。
その結果、多くの企業では、営業活動を支援するシステムを欲していること、しかもインターネットでの集客を加速できるようなものが望ましいと考えていることがわかりました。
得られた結果が当初の仮説通りだったこともあり、A社のマーケティング部門の担当者はさっそくそのデータを企画書に落としこんで、社長をまじえたプレゼンテーションに臨みました。
データの裏付けもあり、プレゼンテーションの内容は多くの重役たちから好評を得られました。
その流れで、インターネット関連の営業支援システムを開発することに、おおむね方向性が決まったのです。
ただし、社長のMさんだけは、なぜか表情が曇りがちでした。
最後にマーケティング担当者がM社長に意見を求めると、次のように話したのです。
「たしかに、プレゼンテーションの内容は理解できた。これからは、インターネット関連の営業支援システムが求められるということも理解できる。しかし、私の肌感覚では、まだ対面や電話による営業、つまりリアルの営業に頼っている企業が大多数だと感じている。とくに中小企業を中心としてね。悪いけど、その方向でもう一度だけリサーチをやり直してくれないか。システムの開発はそれからでも遅くはない」
社長直々の意見ということもあり、マーケティング担当者は渋々リサーチをやり直すことにしました。
データが需要を語っており、また、M社長の意見は自らの勘を頼りにしているというあまり説得力のないものだっため、担当者は再調査にかなり懐疑的ではありました。
「結果は同じだろう」
マーケティング部門では、そのような意見をもった人が大半です。
しかし、再調査の結果、新たな事実が発見されました。
なんと、リアルの営業を行っている企業の方が、若干ではありますが、インターネットを活用している企業よりも多かったのです。
しかも、使える予算を確保しているという意味においては、リアル営業のほうがお金を出してくれる可能性が高いことが判明したのです。
結果的にA社では、当初の予定とは異なり、リアル営業に使えるシステムを開発することになりました。
<解説>
世間一般の常識が、必ずしも顧客の心理を反映しているとは限りません。
大きな時代の流れや需要の変化についても、それらは大まかな傾向だけを表しているだけということが少なくないのです。
仮説を盲信して行うマーケティング・リサーチは、結論ありきの調査になってしまうことがありますので、注意しなければなりません。
【コミュニケーション・ツールとしてのマーケティング・リサーチ】
それでは最後に、マーケティング・リサーチがコミュニケーション・ツールとしても機能するという点について簡単に解説していきましょう。
先程もご紹介しましたが、リサーチの結果はプレゼンテーションや企画書に活用することができます。
データや情報が説得力を高めるという役割を担うのですが、それはつまり、社内でのコミュニケーションを円滑にするということです。
論理的なコミュニケーションには、裏付けとなるデータが欠かせないのです。
また、社外に目を向けてみるとどうでしょうか。
商談や自社製品の紹介、あるいはサービスについて説明するときなども、同様にデータを示すことが重要となるでしょう。
ただ「いいですよ」「オススメですよ」と言うだけでは、会話に説得力が生まれません。
最悪の場合、そのことが取引先の時間を無駄にしてしまう可能性もあるのです。
コミュニケーションを円滑にするために、マーケティング・リサーチを含めた調査を積極的に行い、数字や意見を提示することで、論旨が明確なやりとりをするようにしたいですね。
【まとめ】
・マーケティング・リサーチには次のような注意点がある
?目的を見失わないこと
?仮説にとらわれすぎないこと
?リサーチを疑う姿勢をもつこと
・マーケティング・リサーチの目的がブレてしまえば、得られる結果にも偏りが生じる可能性がある
・マーケティング・リサーチはあくまでも調査。盲信しないことが大切
・コミュニケーション・ツールとしてもリサーチは活用できる
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