ビジネスマーケティング(生産財マーケティング) その2
<例>
新車や中古車を代理販売しているA社は、これまで個人向けの販売をメインに行っていました。
しかしこれからは、法人への販売も強化しようと画策しています。
その背景には、若者を中心とした自動車購入の意欲減退や、カーシェアリングの普及などにより、一般顧客が自動車を購入しなくなっているという実態があります。
このままでは、会社の業績が大きく後退してしまう可能性もあります。
会社の方針転換により、法人部門を統括する目的で新しく配属されたT部長は、これまで個人向けの販売で会社に大きく貢献してきた凄腕営業マンです。
マーケティングの視点を取り入れたその販売手法は、社内だけでなく、社外の人間からも高く評価されていました。
いずれは、A社の社長になるのではとのウワサもあるほどです。
ただ、これまでA社の法人部門は業績が伸び悩んでいました。
競合他社が数多く存在している市場ですし、商品が高額ということもあって、付き合いのある業者から切り替えようとしない顧客が多いという特徴があったからです。
社内では、いくらT部長でも、法人部門の業績を伸ばすのは難しいのではないかと考えられていました。
しかし、そんな心配をよそに、T部長は法人部門の改革を断行していきました。
業界では常識とされてきた「横のつながり」を重視するということを無視して、マーケティングの要素をフルに活用した戦略へと切り替えることにしたのです。
製品ラインナップから営業のかけ方、あるいは顧客との関係づくりについても、マーケティングの考え方を取り入れます。
現場のスタッフたちは、最初のうちこそ、個人向けの手法が通用するはずないと反発していました。
しかし、これまではなかなか攻め入ることのできなかった大手企業からの問い合わせが増えるなど、その効果を認めざるを得ない状況になり、徐々にT部長の賛同者が増えていきました。
業績も、少しずつ改善してきています。
またT部長は、現場の声をマーケティング戦略に反映させることも重視しました。
個人向けでも法人向けでもマーケティングの基本は変わりませんが、法人向けだからこその特徴は必ずあると見越し、その点に関しては現場のスタッフの意見を柔軟に取り入れることにしたのです。
それは、チーム全体の士気を高めることにもつながりました。
その結果、A社の法人部門は大きく成長していきました。
個人向けでも法人向けでもマーケティングが役に立つことを証明したT部長は、東京本社全体の事業部長にまで昇進し、加えてマーケティング戦略部門の取締役として、その後もA社の発展に大きく貢献することになりました。
T部長が作成したマニュアルは、個人部門でも法人部門で大いに活用されています。
<解説>
マーケティングの基本的な要素は、一般顧客を対象にしていようと、あるいは法人などの組織を対象としていようと有効に機能します。
それは、マーケティングの本質が市場に適合するということからも明らかでしょう。
ただし、それぞれの違いをしっかりと把握しつつ運用しなければ、より高い成果を得られないことは言うまでもありません。
【ビジネスマーケティングにおける顧客】
ビジネスマーケティングにおいては、一般顧客を対象とするマーケティングと比較した時に、「顧客」および「製品」に関してその特徴が異なります。
ここからは、それぞれの特徴について解説していきましょう。
すでにご紹介したとおり、顧客に関しては次のような相違点があります。
<1.エンドユーザーと購入意思決定権者が異なる>
一般的な消費活動と異なり、BtoBの現場では、エンドユーザーと購入意思決定権者が異なる場合がほとんどです。
たとえば、パソコンを購入する場合においても、個人であれば好みに合わせて検討することができますが、企業の場合には実際に使う人が購入者と一致するとは限らないので、対象者の意見を斟酌しなければなりません。
また、高額なものを購入する場合には、役員がその是非を検討するという場合もあります。
購入するのは一般社員だったとしても、社長を含めた重役が意思決定者であると考えられるのなら、マーケティング手法も自ずと変えなければなりません。
ターゲットが異なれば、価格や製品特性も変える必要がありますよね。
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